クレクレママの余罪
一週間後、私は聡美のほしがりな行動を同じマンションの松江さんに相談した。
「おさがりをあげたくないわけじゃないんだけど、ちょっと行き過ぎだと思わない?まだ拓海が履いてる靴までほしがるの。自分で買えよって思っちゃって。どうやって断ればいいんだろ」
マンションのエントランスで立ち話をしながら、私は大きなため息をつく。住人しか入れないエントランスは、ママ友たちとのたまり場になっていた。
「実はさ、私も昔、聡美さんからクレクレ攻撃にあってたんだよね」
「…え?松江さんも?」
松江さんは困ったような顔で、ゆっくりと話し始めた。
「私、ハンドメイドで入園・入学グッズとか、子どものヘアアクセサリーとか作ってるじゃない」
「うんうん。松江さんの商品すごいよね」
「それをさぁ…タダで寄越せって言うの」
「え?」
「入園前から聡美さんとは児童館を通じて知り合いだったんだけど、桜が丘幼稚園に入園が決まったとき、園グッズ作ってくれませんか?って言われたんだよね」
「うんうん」
「それで、トータルでいくらくらいですけどいいですか?って聞いたら、お金とるなんてありえない!って言われて…まぁ私もそれまでヘアゴムをプレゼントしたことあったから、入園グッズも無料でもらえると思ったのかなとは思ったんだけど」
「ヘアゴムはこっちが好意であげているものじゃない!もともと販売してるのに…」
「そうなの。でも、ただ布をくっつけるだけなのにどうしてそんな金額とるの?って。友達なのに親切にしてくれないのはおかしい、ヘアゴム程度しかくれないケチババアとか言われちゃって」
開いた口がふさがらなかった。困ったように笑う松江さんを、私は呆然と見つめる。
「結局その場は逃げたんだけど、それ以降私聡美さんとは話してないよ」
「たしかに、挨拶してるところも見たことないや」
「そうでしょ?あの人、とにかく人からタダで何かもらおうとするのよ。たしか良哉くんママも被害に遭ってたはず。ベビーカーちょうだいって言われたんじゃなかったかな。2人目の予定があるって言っても引き下がらなかったらしいよ。だから気をつけてね、エスカレートする前に距離置いたほうがいいかも」
私は松江さんの話を聞いて、聡美に次何か言われたらキッパリ断ることを決意した。
「これくらいいいか」と思ってあげているとエスカレートするかもしれない。そうなる前にしっかり迷惑だと言おうと、心に決めたのだった。