「うちの子預かって」義理姉の身勝手すぎる要求
私の悲痛な叫びに夫が耳を貸すことはなかった。
「気のせいだよ」「考えすぎだよ」「身内なんだから、スキンシップでしょ」
夫からの言葉の数々が心にグサグサと突き刺さっていく。
さらに事件が起きたのは、私が職場復帰をしてから1週間後のことだった。その日、6時にインターホンがなったのだ。
「誰?こんな朝早くに…」
夫と自分のお弁当を用意する手を止め、モニターを見に行く。そこに移っていたのは義姉と、義姉の息子だった。
「お義姉さん…?どうしました?」
「ちょっと、あけて!部屋に入れてよ!緊急事態なの!」
朝っぱらから大声でモニター越しに叫びだす義姉に驚き、私は慌ててドアを開ける。
「ねぇ、きょう龍之介のこと預かって?ってか、これから平日は毎日よろしく!」
「…え?無理ですけど」
「はぁ?義姉の言うこと聞けないの?」
「なんであなたの言うこと聞かなきゃいけないんですか?それに私、もう仕事復帰したんです」
「仕事って何、保育園?じゃあ龍之介も連れてってよ!園児が1人増えるぐらいどうってことないでしょ」
「…お義姉さん、非常識にもほどがあります」
「ケチすぎ!心狭いなぁ…とりあえずお邪魔しまぁす」
義姉は勝手に靴を脱ぎ、ずかずかと自宅に入ってくる。
「ちょっと…!」
私が止めようとしていると、突如大和が客間から出てきた。
「あれ、姉さんおはよー。どうしたの?こんな朝っぱらから」
「聞いてよ、沙耶ちゃんが龍之介のこと預かってくれないの」
「え?なんで?」
「沙耶ちゃん仕事なんだって。休めばよくない?知らない園児と甥っ子、どっちが大事って話だよね」
うんざりするような会話が続く。
「そもそも、どうして預けに来たんですか?何か急用でもあるんですか?」
「あー、私仕事復帰したの。私働くの好きだからさぁ、働けないとノイローゼになりそうでマジヤバいのよ。でも預け先ないじゃん?だから、沙耶ちゃん」
「…保育園探してから働くのが常識じゃないですか」
「えーっだって近くに保育士がいるんだよ?利用しないと」
ちっとも理解できなかった。わかり合えない。本当に同じ人間なのかと疑ってしまう。
「いいよいいよ姉さん、龍之介置いてきなよ」
大和は義姉から龍之介を受け取る。
「あ、ありがとー!大和は話が早くて助かるぅ。じゃあ、18時までに迎えに来るねー!」
「ちょっと…困ります…!」
私が止めようとしても、義姉はとっとと家を出て行ってしまった。私の家に、生後6カ月の子どもを残して。
「…大和くん、あなたきょうバイト休みなの?」
「いや?」
「…じゃあだれが龍之介くんを見るの?」
「沙耶さんでしょ?当たり前のこと聞かないでよ」
「私、仕事なんだよ!?話聞いてなかった!?」
思わず大きな声を出してしまう。すると、黙ってテレビを見ていた凜が大きな声で泣き出した。
「あ…ごめんね凜。ママ、うるさかったね」
慌てて凜を抱き上げると、なんだか身体が熱いことに気がつく。
「凛…熱ある?」
そっとおでこに手を添えると、やはり熱い。
「よかったじゃん、仕事休まなきゃいけないね」
大和のあざ笑うような声に、私は唇をギュッと噛みしめた。そのあと義姉にさんざん連絡したが、義姉が連絡を返してくることはなかった。