非常識なきょうだいと、周囲の決断
「お前、何してんの」
義姉の夫は、義姉に静かに告げた。
「え?なになに、怖いんだけど」
「怖いのはお前だろ。沙耶さんに謝れよ」
「は?」
部屋にピリッとした空気が流れる。
「離婚だよ離婚」
「…え?」
「お前みたいな非常識な女、無理だわ俺。一緒に住めない。龍之介を任せることもできない。最低じゃんお前さ…」
「ちょっと待って、離婚って、本気で言ってる?」
気丈に振舞っていたはずの義姉が、突然震えだす。そのまま自身の夫の足元に駆け寄り、すがるように泣き始めた。
「冗談でしょ…?ひどいよ、どうしてそんなこと言うの?」
「ひどい?お前に言われたくない。保育園が決まったから職場復帰するんだって言っていたけど、全部嘘じゃないか。沙耶さんに頼ってたんだろう?おかしいだろ。お前さ、何考えてんの?」
「だ、だって…沙耶さんは保育士だから…」
「は?保育士に見てもらいたいなら保育園に預けろよ。沙耶さんだって子どもがいるし、職場復帰もするのわからないわけ?お前さ、自分勝手なのもいい加減にしろよ」
「わ、私そんなつもりじゃ…」
「じゃあどういうつもりだよ」
義姉の夫の冷たい声が、空気をさらにピリリとひりつかせる。結局義姉は自身の夫に連れられ、そのまま家に帰っていった。
その後義姉は保育園探しをするものの見つからず、仕事をやめ、専業主婦として過ごすことなる。さらにマンションを売り払い、義姉の夫の母親との同居が決まったらしい。
離婚はしなくなったものの、もう二度と義姉が私の前に顔を出すことはなかった。
「大和、お前も出てってくれよ」
義姉がいなくなったリビングで、俊が告げる。
「お、俺無理だよ。帰る家ないもん!」
「実家に帰ればいいだろ」
「だって母さんうるさいし…」
「出てけ」
俊はギロリと大和をにらみつけた。
「…はい…」
大和は俊と、さらに私の両親ににらまれ、出て行く以外の選択ができなくなったようだ。
大和は実家に帰ったが、義母は老人ホームに入る計画を立てていたため、結局すぐに大和は家を追い出された。
帰る家が本当になくなった大和は寮付きの会社に渋々就職し、二度と私の家にやってくることはなかった。
「沙耶、そしてお母さん、お父さん…本当にすみませんでした」
俊は義姉も義弟もいなくなったリビングで深々と頭を下げる。
私は俊に対しての失望を抱きながら、両親の顔を交互に見つめた。
「あなたのこと、しばらく信じられないと思う。結構幻滅した」
「うん…」
「…でも、あなたが反省して心を入れ替えるっていうなら、一回だけ信じようかなと思う」
凜は自らの父親を見て、にこにこと笑っていた。この子の笑顔のために、私はもう一度信じてみてもいいのかもしれない。
両親がそっと背中をさする。その手の温かさが、私の心の大きな支えとなった。
- image by:Shutterstock
- ※掲載時の情報です。内容は変更になる可能性があります。