義母の暴走
月に1回、私は一人で隣県に住む義母宅を訪れる。膝の悪い義母を病院まで送迎するからだ。
私が電話で怒りを伝えた後から、義母とは一切連絡を取り合っていない。なんだか気が重く沈んだままだった。
義母宅の周辺には、のどかな田園風景が広がっている。義父が生きていた頃は、家の裏に大きな畑があった。
いまでは家の横のこじんまりとした畑だけ。ひざの悪い義母にとって、大きな畑を管理するのは難しいことだったから。
しかし小さな畑でも十分ストレス発散になっているらしい。外に出るきっかけにもなっているし、ご近所さんと話す時間にもなっているようだ。
ひざが悪いとはいえ歩けないわけではないので、ちょうどいい運動にもなっている。
義母宅の畑には、大きなナスやキュウリがゴロゴロとなっていた。私はそんな畑を見て「この新鮮な野菜ならいくらでももらうんだけど」と思ってしまう。
はぁ、と大きくため息をついて義母宅のインターホンを押す。なかなか義母は出てこない。それどころか返事もない。
「いないのかな」
もう一度インターホンを押す。
「お義母さーん、真紀です。お迎えにきましたー!」
大きな声で叫んでみる。すると突然ドアが開き、義母が私を睨みつけながら立っていた。
「帰って!」
「え?」
義母は恐ろしい剣幕で、私に怒鳴る。
「老人をいじめるやつは入らないで!帰って!」
「ちょ、ちょっとお義母さん?」
「アンタの顔なんか見たくないのよ!もう帰ってちょうだい!また私をいじめるの!?もうあっち行ってよ!」
見たことのない義母の様子に戸惑いが隠せない。義母は喉が擦り切れるほど大きな声で、顔を真っ赤にして叫んでいる。
その大声に驚いて、近所の人も窓から覗いているのが伝わってくる。
「あの、お義母さん。きょうは病院ですよ?」
「うるさいうるさい!アンタ、私をいじめようとしてるんでしょう!帰って!もう嫌なの!」
「病院、行かないんですか?」
「帰ってよ!」
話にならない、と思った。
義母がなぜここまでイライラしているのかはわからないが、ここまで怒鳴られたら帰るしかなかった。
何か精神的に病んでしまったのだろうか?それとも病気の前兆?
私は逃げるように車に乗り込んで病院に電話をかける。「認知症の前兆かもしれないから、今度病院で検査してみましょう」と言われただけだった。
その日、帰宅してきた慎吾が私の顔を見るなり、珍しく怒ってきた。
「なんで母さんを病院に連れていかなかったんだよ!母さん、『私に死んでほしいと思っているんだ』って泣きながら電話かけてきたんだぞ!?」
開いた口がふさがらなかった。
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