その後の私たちは…
「母さん、何してんだよ!」
リビングのドアを勢いよく開けた慎吾は、ソファーで顔を真っ赤にしている義母に大きな声をあげる。
「さなちゃん、大丈夫?真紀ちゃんも」
義姉がすぐそばにかけよってくる。さなは味方が来たとわかったのか、緊張の糸がほどけ、声をあげて泣きだした。
「母さん、出てってくれよ」
「何よひどいわね、私真紀さんに謝りに来てたのよ」
「謝る?さなを見てみろよ。謝るだけでなんでこんなに泣くんだよ」
「知らないわよ、何か真紀さんに痛いことされたんじゃない?」
「ママはそんなことしないもん!ばぁば嘘つかないでよ!」
さなが泣きながら、義母に怒った。父親に似て温厚な性格のさなが、泣きながら声を荒げている。
「さな、大丈夫だよ」
「ママのこといじめないでよ!ばぁばなんて大嫌い!あっち行って!」
「さな…」
私はさなをギュッと抱きしめる。さなはまた声をあげて泣き出した。子どもにこんなことを言わせるなんて。
「金輪際俺らに関わるな。俺ももう、母さんとは関わりたくない」
「慎吾、そんな。私母親なのよ…?」
「行くよ、お母さん」
義姉が母親の腕を引っ張る。
「やめてよ!」
「やめてって言うのはこっちのセリフ。もうこれ以上真紀ちゃんたちに関わらないで」
義姉の冷たい言葉に、義母はついに黙った。
その後義母はようやく自分の過ちに気づき、反省したらしい。しかしもう時すでに遅し。私たちはそれから一切義母との交流をやめた。
さらに法事のときに義母の様子を見ていた孫たちも、義母を避けるようになったという。
あとから知ったことだが、義母は慎吾の野菜嫌いが私の料理で克服されたのが気にくわず、わざと腐った野菜を詰めていたらしい。前から痛んだ野菜を使っていた義母ですら使いたくないと思うような野菜を、あえて段ボールに入れていた。
この件以降、義母は「そもそも必要以上の野菜を作るな」と、義弟にこっぴどく叱られたそうだ。
「ねぇママ、あしたはお弁当にブロッコリー入れてね」
「うん!あとは何入れようかな」
「俺ね、きんぴらごぼうがいい」
家族はきょうも、私のご飯をおいしいと言って食べてくれる。もう腐ったものをどうしようかと悩む必要がない。
そんな普通の日々のなかで作る料理は、やっぱりおいしくて楽しかった。
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