息子に大事にされる嫁が、羨ましい

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「母さん、こんな遅くまで起きてて大丈夫なの?」
「やーね、母さんだってそんなにおばあちゃんじゃないわよ!あら!これ、梨花さん。あのブランドじゃない!」
義母は、梨花がテーブルのうえに置いた水色の紙袋を勝手に開き出す。
「母さんにお土産?ありがとうね」
「違うよ、梨花にプレゼント。指、見てみて?」
陽一にうながされ、梨花は左手の小指を見せる。先ほどもらったばかりのピンキーリングが輝いている。
「まあ!えー!梨花ちゃんだけ?私は?」
「なんで母さんにプレゼント渡さなきゃならないの。母の日も誕生日もまだまだ先でしょ?」
「母さんだってほしいんだもん。ねぇ梨花ちゃん、指輪貸して!私もつけてみたい」
義母は半ば無理やり梨花の小指から指輪をぶんどって、自分の指につけた。
「どう?母さんも似合うわよね!」
「ダメだよ母さん外して。梨花にあげたんだから」
「えー」
陽一の声に従い、義母がいやいや指輪を外す。
梨花はその指輪を見て少し眉をしかめ、再び自分の小指につけた。他人の体温が感じられて、やけに気持ち悪い。
「それで、こんな時間までどこに行ってたの?ホテルディナーだけでこんなにかかる?18時予約でしょ?ねぇ、二次会はどこに行ってたの?」
義母はいつもこんな調子だった。とにかく陽一や梨花の予定を把握していないと気が済まないのだった。だからこうして、デートから帰ったあとは質問攻めに会う。
梨花は義母の相手を陽一に任せ、そそくさとお風呂場に逃げ込むのだった。
次の日から、義母は毎晩のように梨花たちのリビングにやってきて「一緒に食事を取ろう」と言ってくるようになった。義父に「迷惑だからやめなさい」と言われても、義母は食事を一緒に取るのをやめない。
これじゃあ完全分離にした意味がないと梨花はゲンナリしていたが、陽一はまんざらでもない様子だった。
「母さんの肉じゃがは世界一だなぁ」
「でしょう?陽ちゃんの好み、母さんはな~んでも知ってるからねぇ」
ニヤニヤしながら、義母は横目で梨花を見つめた。その顔は「息子は私のほうが好きなのよ」というアピール。これまでに何度も同じ顔をされたことがある。そのたびに、梨花は言いようのない気持ち悪さに襲われていた。
だから同居は嫌だったのだが、「二世帯住宅で完全分離ならいい?」という再三の陽一のプレゼンに負けてしまった。それが悲劇のはじまりだったと、梨花は薄々感づいていた。
義母の張り合いは、夕飯だけにとどまらなかった。梨花は毎朝陽一にお弁当を作っていたが、義母も梨花に張り合うように陽一にお弁当を作るようになったのだ。
案の定陽一は「母さんに悪いから」という理由で梨花のお弁当を拒否し、義母のお弁当を持っていくようになる。作る手間が省けたと考えればラッキーなのかもしれないが、梨花は内心モヤモヤしていた。
母親の肩をひたすらに持つ、マザコン気質な陽一にも腹が立ち始めていたからだ。
極めつけは義母のこの言葉だった。
「最近梨花さんのご飯、陽ちゃん食べないんでしょう?やっぱり私のご飯のほうが陽ちゃんは好きなのかしらねぇ…」
梨花のご飯を食べないのは、義母がおかずを作って持ってくるからだ。余らせるわけにもいかないので、結局梨花は何も作る必要はなくなってしまう。
義母はそれを知っているのだろう。いつも、どう頑張っても余る量のおかずを作って持ってくるのだから。