成人しているのに実家を出ず、いつまでも子ども時代を過ごした部屋にいながら社会との関わりを断つのが、いわゆる「こどおじ・こどおば」と呼ばれる人たちです。
なかには、家族にいろんな方向で負担をかけても平気だという人もいるそう。その手は別の家で暮らす親族まで伸びがちで、迷惑をかけられる側になると対応に困るのが現実です。
こんな「こどおじ・こどおば」の実態はどんなものなのか、聞いた話をもとに実態をご紹介します。
「借金を作っても悪びれない」ひとり息子に悩む家
スーパーでアルバイトをしている女性Aさん(62歳)の家には、40歳になるひとり息子がいます。
頑健な体つきで特に持病を抱えているような話は聞かないのに、この男性は成人してからもずっと実家に住み続け、「仕事をしている雰囲気ではない」のが近所の人たちの関心を引く理由でした。
Aさんが言うには、男性は若いころにマルチ商法に手を出して多額の借金を作ったことがあり、親戚中に頭を下げて何とかお金を工面して返済したことがトラウマになっているそうでした。
苦い経験から社会に出ることに恐怖を覚える心情は理解できるとしても、たまに短期のアルバイトをしているだけで生活費をすべて親に頼っている状況は、いいものとは決して言えないと近所の人たちは話します。
Aさんは、ずっとご近所付き合いのある人に「借金を作って周りに迷惑をかけたことを悪いとは思っていない」とひとり息子について話し、まともに働かない自分を正当化し続けることに悩んでいました。
金に困ったひとり息子が向かう先
Aさんの夫は10年前にがんを発症して亡くなっており、退職金はその治療費に消え、「いまも生活は大変」だと言います。
父親が入院しているときは、さすがに男性もじっとしてはいられなかったのか、3カ月間、工場勤務に出ていたそうです。
それでも、父親がこの世を去って遺族年金を母親が受給するようになると、また以前と同じように部屋に引きこもって好きなように暮らす日々に戻り…。
「食費だけでも私の倍以上はかかるし、服や漫画とかほしいものはどんどん買えと迫ってくるし、お金はなくなる一方」と話すAさんは、抵抗すると大声で怒鳴ったり部屋の壁を殴って穴を開けたりする息子に手を焼いているようでした。
給料日前などで本当に家にお金がないとき、この男性は近くに住む母方の祖母の家に行き、お金を無心しています。
最初は「借りる」と言っていたのが、いつの間にか祖母を買い物に連れ出して一緒に自分のものを大量に買わせたり、病院の送り迎えをして多額のお小遣いをねだったり、非常識なやり方でお金をもらっている状態でした。
この祖母も、こんな孫の訪問は迷惑でしかなく「断りたいが会えるまで何度でも訪ねてくるから」と諦め顔で近所の人に愚痴をこぼしているそうです。
自分の思い通りにならないことがあるとすぐに怒りを見せ、力の強さを誇示して家族を従わせるような姿は、家から定期的に怒鳴り声が聞こえてくることで近所の人たちも把握していました。
現在の問題
Aさんは高齢になっても生活費のために働くしかなく、いまはスーパー以外にもパチンコ店での清掃業務にも就いて何とかお金を得ています。
子ども部屋から出ていこうとしない家族がいると、何より困るのがお金の工面です。
多くの場合、自身は働かないけれど食費や娯楽費を削る意識は薄く、「家族」の名目のもとで年をとった親にも平気で養うことを求めます。
お金を渡すことを拒めば、犯罪の一歩手前のようなやり方で親族などのお金を狙うこともあり、金銭感覚の異常さは見ている世界が本当に自分中心だとわかりますね。
Aさんのひとり息子も、ほかの「こどおじ・こどおば」と呼ばれる人たちと同じく、「自分には働けない理由があるのだから仕方ない」と努力することを放棄しており、そのツケを親に取らせようとするのが当たり前でした。
しかし、そんな子どもをいつまでも許容していられない事情は親のほうにもあり、Aさんのケースでは近所に住む祖母の足腰が弱りひとり暮らしでは心配なことから、「いずれこっちに引き取って一緒に暮らしたい」という思いがありました。
この提案に、男性は「母さんが仕事に行っている間は俺が面倒をみないといけないじゃないか」と猛反対し、それでも引き取るのであれば祖母の年金を全額自分に渡すことを条件に持ち出したそうです。
これは「自分への迷惑料」と男性は言ったそうで、「年金を渡すなら介護はすると言ったけど、信用できない」とAさんはため息をついていました。
この話を聞いた祖母も、Aさんの家で一緒に暮らすことは諦めたそうです。
「こどおじ」でいられなくなる瞬間
たったひとりの家族のせいで自分の親とも暮らせないような現実は、正常とは決して言えません。
自分も今後は体が弱る一方だとわかっているAさんは、市外にいる自分の兄を頼ることを考えていました。
「兄は元公務員で、家族がいて順調に暮らしていることは知っています。母について心配はしているのですが、兄の近くには奥さんの実家があってそっちの面倒をみないといけないらしく、母の世話を私だけに押し付けていることをいつも謝っていました」
退職後も嘱託職員として元の勤め先で働いているという兄は、県警の機動隊に従事していたこともあるいわゆる「猛者」。
現役時代に鍛えた肉体は年をとっても迫力があるそうで、Aさんの家に来ると息子は気まずそうに部屋に逃げ込むのだと言います。
兄はAさんの息子についても心配はするものの、本人の意思がなくてはどうにもならない現実はよく知っており、口を出すだけに留まっていました。
Aさんは、母を連れてこの兄の近くに身を寄せる計画をひそかに練っています。
「私がこの家を出れば、あの子はひとりで生活していかないといけなくなる。お金がほしくても、1台しかないクルマは私が乗っていくから移動の手段はないし、あの兄のもとにいるとわかったら来る勇気はないはず」
強硬手段ではあるけれど、強制的に距離を取られたらこの息子も変わるしかないだろう。それは、兄も同じ意見だったそうです。
体は健康で五体満足、働こうと思えばまだまだ可能な年であり、嫌でも外の世界に出なければいけない事態になれば自分の生き方についても考えるはずとAさんは思っています。
「こどおじ」でいられなくなる瞬間は、本人がどうあがいてもいずれやってくるのですね。
「家族だからこそ」の決断
Aさんは現在、引っ越しのためのお金をこっそりと貯めているところで、近所に住む母親も男性に渡すお金を減らしながら貯金に励んでいます。
第三者から見れば「家族を捨てる」と感じるような決断でも、当事者にとっては「家族だからこそ離れる」のが本音であり、自分たちのための選択です。
Aさんがもっとも恐れているのは「一家で共倒れになる結末」であり、まだ自分が動けるうちに手を打つこと、いまのまま未来に向かうのではなく息子自身が目を覚ますことが重要です。
「本当なら、母の面倒を息子と一緒にみるのが理想だった」とAさんは話しますが、当の息子がかたくなにそれを受け入れないのであれば、別の道を選ぶしかありません。
それは、男性がそうさせたとも言えます。
自分の勝手を通した結果がこの母親の「計画」であって、それを責めたところで二度と元の生活に戻ることはありません。
「生きるための選択」をするのは家族だからこそ、自分の足で立つ正しさを知る必要があります。
とにかく息子にバレずに計画を進めることしか考えていないというのがAさんのいまの現実であり、こどおじでいられなくなったときに男性はどうするのか、これからが正念場と言えます。
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