近年、「死後離婚」という言葉を耳にする機会が増えました。これは夫に先立たれた未亡人の妻が「夫の実家(義理の両親)と縁を切る」こと。具体的には役所へ「姻族関係終了届」を提出するのですが、法務省の戸籍統計によると、この届出件数は10年前と比べ1.5倍に増えています。
「もし僕に何かあったら、妻は僕の父や母の面倒を見てくれるだろうか」。新型コロナウイルスが流行し、そんなことが頭をよぎった方もいるのではないでしょうか。これは、誰しも起こり得る心配事のひとつだと思います。
いままでの結婚生活を少し振り返ってみてください。わがまま放題に振る舞ってきて妻に迷惑をかけたり、(夫の)母が癇癪持ちで妻と折り合いが悪かったり、仕事人間で家庭を顧みず、両親のことを妻に任せっきりだったり…。少しでも心当たりがあれば、未亡人の妻が夫の両親と縁を切って家を出て行き、介護を放棄しても不思議ではありません。
そもそも両親の介護などの「扶養義務」については、民法877条第1項において「夫婦相互間、直系血族及び兄弟姉妹は互いに扶養をする義務がある」と定められています。つまり、夫婦ともにそれぞれの実父母に対しては扶養義務がありますが、義理の父母に対しては扶養義務がないのです。
姻族関係終了届を提出した理由としては「親戚付き合いをやめたい」「いっしょに暮らしたくない」そして何より「夫の両親を介護したくない」ということが主に挙げられるようです。
今回は、行政書士、ファイナンシャルプランナーである私が受けた相談実例から「未亡人の妻が夫の両親の介護をやめたケース」「やめなかったケース」を紹介し、具体的に何が決断を分けるのかを分析していきたいと思います。
囚われ続けた、28年間
まず、妻が亡くなった夫両親との縁を切り、家を出て介護をやめてしまったケース。一体、どのような経緯で決断に至ったのでしょうか。ここではご相談にいらっしゃったYさん夫婦をご紹介します。
- 相談者プロフィール
- Yさん58歳
- 夫58歳
- 長女25歳
「娘も私もずいぶん楽になりました。(夫の母親を)介護しなくてよくなったので」。そんなふうに安堵の表情を浮かべるのは、58歳のYさん。
Yさんは結婚生活28年間のうち15年間、夫の母親(夫は母子家庭)とひとつ屋根の下で暮らしてきたのですが、いままで亭主関白な夫に振り回され続けてきました。
Yさんは新卒で就職した会社にいまでも勤務しており、今年で勤続36年目。夫はYさんが正社員で働き、安定した収入を得ているのをいいことに、キャバクラやパチンコ、そしてFX投資など散財を繰り返し、まともに生活費を入れない月も多く、Yさんの稼ぎで一家を支えざるを得ない状態が続いていました。
そんななか、3年前に義母が脳梗塞で倒れ、その後遺症で身体の一部に麻痺が残ることに。Yさんは夫子だけでなく、義母の面倒も見なければならなくなりました。
仕事、家事や育児、介護に追われる毎日。一方、長年の暴飲暴食が祟ったのか、夫は「末期がんで余命6カ月」と診断され、あっという間にこの世を去ってしまったのです。