実母のような存在を、見捨てられない
次は、夫が亡くなっても家に残って義母を引き取り、介護を続けることを選んだケース。どのような経緯で「やめない」という決断に至ったのでしょうか。次はKさんご夫婦を例にご紹介します。
- 相談者プロフィール
- Kさん56歳
- 夫56歳
- 娘2人
56歳のKさんは、夫、娘2人と二世帯住宅で暮らしていました。義理の両親(以下、義両親)が住んでいた家にKさん夫婦の家を増したのは25年前のこと。もともとは義両親もいっしょに住んでいたのですが、義父は3年前に他界し、義母も現在は軽度の認知症と診断され、介護管理者つきマンションに入居中です。
基本的な食事や入浴などの世話はヘルパーが代わってくれるのですが、週1回の通院への付き添いや、ヘルパーさんとの細々とした連絡等は家族の「誰か」が行わなければならず、息子(夫)は何もしようとしないのでKさんがやらざるを得ない状況でした。
実親の介護を妻に丸投げした夫ですが、Kさんへの悪口や不満、愚痴を吐き散らすので、夫婦の間では喧嘩が絶えません。昨年末には夫が手を上げてKさんが顔を負傷してしまったので、仕方なく警察を呼んだそうです。
ところで義父が亡くなってから3年が経過しているのに、いまだに実家部分は義父名義のままで、夫(息子)への名義変更を行っていませんでした。なぜでしょうか?実はKさん夫婦には、特別な事情があったのです。
それは夫の不倫。相手は同じ職場の派遣社員で、夫は週末になると決まってその女性の家に入り浸っていたのです。Kさんも手をこまねいていたわけではなく、興信所に依頼し、女性の素性(住所、名前等)を特定した上で慰謝料を請求し、200万円を払わせていました。
これで2人の関係を絶ち切ることができたと安心していたのですが…「女性の支払能力を考えると、慰謝料は夫が立て替えたのでは?」とKさんは勘づいたのです。さらに「まだ不倫が続いている可能性がある」と気づき始めたころには、夫から離婚を突きつけられてしまいました。
もしKさんが離婚に同意したら、どうなるでしょうか。実は生前、義父とKさんは養子縁組をしていました。そのため、夫はKさんに離縁するよう求めてくるはずです。そうすると兄弟がいない夫は、実家の土地建物を相続するでしょう。
その結果、Kさんは自宅に住む権利を失うので、夫はKさんを追い出し、不倫相手の女性を招き入れるはずです。しかし過去の言動を振り返ると夫や女性が義母の面倒を見るとは思えず、「介護放棄」の危険すらありました。
「お母さんも息子(夫)をあんなふうに育ててしまったという罪はあるかもしれませんが、最期まで安心して暮らせる場所を確保してあげたい。本当は息子(夫)といっしょに余生を過ごせたらいいのですが…」と、Kさんは苦しい心境を吐露しますが、夫は妻の性格を知ったうえで都合よく利用しているのだからしたたかです。
Kさんにとって義母といっしょに暮らしていた期間は、実母と同じ25年間。だから、義母は実母と同じような存在となっていました。Kさんは夫に都合よく利用されていることを知りながら、それでも義母を見捨てるわけにはいかないと思ったそうです。