関係は「友達」のはずなのに、なぜかグループ内には上下があって一方的に「下位」とされたら小間使いのよう扱われる。
そんなママ友カーストに身を置いていれば、自分への自信も他人を信じる気持ちも薄れていきます。
対等なつながりに上下関係を持ち込むようなグループは離れるのが正解で、問題は「どうやって抜けるか」です。
ある女性はどうやって「カースト下位」から脱出したのか、エピソードをお聞きしました。
「人より優れている息子」を自慢するボスママ
佐和子さん(仮名/35歳)は、娘さんが通っている幼稚園でそのママ友グループのメンバーと知り合い、「いろいろ情報交換ができるから」と誘われてグループに入ったそうです。
「誘ってくれたママ友は私と性格とか生活の環境が似ていて、この人がいるなら大丈夫だろうとそのときは思いました」と振り返る佐和子さんですが、ほかのメンバーに紹介されてお付き合いが始まってから、すぐ異常さに気がつきます。
「いわゆるボスママみたいな人がいて、グループLINEで家族の自慢やら他人への不満やら、好き勝手に書き込んではみんながそれに付き合って返信していて、別のメンバーが何か書いてもボスママが返信しない限りは誰も答えないみたいな緊張感がありました」
ボスママが「きょうも疲れた~」と一言書き込めば、ほかのメンバーはお茶のスタンプをいっせいに送信するような流れがあり、佐和子さんも慌てて送っていましたが、「だからいつもグループLINEの投稿から気が抜けませんでした」とため息をつきます。
ボスママはなぜそんな態度が取れるのか、佐和子さんが考える理由を聞くと、「息子さんが県内でトップの私立中学の野球部でエースをしており、テレビや雑誌で紹介されることが多いうえに『成績も優秀』らしく、ボスママは『私のしつけがよかった』みたいな発言をいつもしていました。子どもがどれだけ人より優れているかがグループでは重要で、私やママ友のようにごく普通の子を持つ人は肩身が狭かったですね」と、眉をしかめて続けました。
ほかにも有名な私立に子が通っている、絵画や習字などで何度も賞を取っているなど、“優れた子”がいる女性は上位であり、グループ内にはカーストができていました。
納得できない「役目」
「園の行事やランチ会などで、下位にいる人が段取りをするのが暗黙の了解になっていました。早めに行ってボスママにいい席を確保しておいたり、ご飯を食べるお店も上位の人たちの要望だけで決められて予約はこっちに丸投げされたり…まるでパシリのようでしたね。しかも、こっちが何をやってもそれに感謝されることはなくて、これが一番ストレスで」
佐和子さんがそのグループを抜けたいと思ったのは、一方的に押し付けられる「役目」に納得できなかったからでした。
いいことは何もないのかといえばそうではなく、「みんな住んでいるところが近いので、不審者情報などはすぐ流してくれるし、家族連れで行けるお店を教えあったり、あと病気についてもみんなの状況を話し合えたりして、心強い面はありました」と、グループにはたしかにメリットがあり、下位のママ友たちとは仲がよかったことが佐和子さんを縛っていたと言います。
「いま思えば、これも洗脳に近いですよね。みんなとは別にそのグループにいなくても仲良くできるのに、ボスママたちの顔色をうかがうのが当たり前になって、抜ければ何を言われるかわからない恐怖がありました」
グループに上下関係があれば抜けることは簡単ではなく、ボスママたちへの愚痴を言い合って何とか気持ちを抑えながら、窮屈なお付き合いが続いていました。
人としてありえない言葉
そんな佐和子さんがグループから脱出する決意をしたのは、いわゆるコロナ禍で世間が他人とのお付き合いを考え直す機会にさらされているときでした。
行動制限があるなか、郊外へのちょっとしたお出かけの際にはみんながお土産を買ってきて園で会ったときに配っており、佐和子さんも「少しでもみんなの楽しみが増えれば」と個包装のお菓子などを渡していました。
「あのころは、道の駅などで手作りのマスクがよく置かれていました。ちょうどマスク不足が言われているときで、丁寧に作られて包装もしっかりしているし、みんなに配ったら喜んでもらえるかなと思ったのですが…」
こんなときはどうしてもボスママから選んでもらう必要があり、園の送迎で会ったときに佐和子さんがお土産のマスクを差し出すと、ボスママは「素敵ね、ありがとう」と手に取ってくれたと言います。
ほかのメンバーにも手作りのマスクは好評で、よかったなと佐和子さんもほっとしていました。
ところが、同じ下位のメンバーである女性が「ボスママたち、あなたがくれたマスクのことを『貧乏くさい』『恥ずかしい』って言っていたわよ。
失礼よね」と聞かされ、「別の人にあげた」とまで口にしていたことを知り、「もういいや」と一気に心が冷たくなったそうです。
「私のことはまだいいけれど、それを作った人の気持ちを考えたら、貧乏くさいだの恥ずかしいだの…はっきりと怒りが湧きました。これまで我慢していたものが一気に吹き出た感じで、もうこんなグループからは抜けようと決めました」
抜けたらどうなるのか、いじめのターゲットにされる可能性も当然佐和子さんは考えましたが、「こんなところにいればずっとこのストレスを味わうのだ」と思えば、まだ誰かの助けを借りられる外の世界のほうがずっといい、と脱出を決意したそうです。
思い切った「嘘」
「どんな言い訳ならスムーズに抜けられるかいろいろと考えたのですが、結局は園で顔を合わせることからは逃げられないので、ヘタな嘘はつけないなと思いました。それで、みんなが探れないことを理由にしました」
佐和子さんが考えたのは、「義実家の事情で引っ越すことになるかも」という嘘でした。
義実家はクルマで1時間ほどのところにあり、「義母が病気で在宅での介護が必要になった」と言っても誰もそれを確認することはできません。
義母の病気も引っ越しも嘘だけど、状況を説明して「忙しくなるのでグループLINEでの返信が難しくなる」と投稿しても誰も反応しませんでした。
「私への関心が薄いことは、かえって気楽でしたね。仲のいいママ友たちとは個別で連絡を取り合っていたし、私自身ほかのメンバーには興味がなかったので、形だけの断りという感じでした」と、そのままグループLINEを退会します。
佐和子さんが気をつけていたのは「仲のいいママ友たちにもこれが嘘であるとは言わない」ことで、園にも引っ越す可能性について報告し、関わりのある人すべてに同じ情報を流したことが、後でおかしな関心を引かなかった理由と言えます。
「グループLINEは抜けたしメンバーとは園で会ったら会釈するくらいになり、そのまま過ごしました。ママ友たちに『引っ越さなくてもよくなった』と伝えたら、後は勝手に情報が流れるだろうと思って。園にも改めてここに通い続けると報告して、私の引っ越しの件は終わりましたね」
結局引っ越しはせず園も出ていかないとわかれば、ボスママたちがまた「下位」として利用するためにグループに誘う可能性がありましたが、「私と入れ替わりで新しいメンバーが入ったようで、その人についてあれこれと探っていると、まだグループにいるママ友から聞きました。いつまでもそんなことをしている人たちなど、どうでもいいです」と、きっぱりと関わりを断てたそうです。
上下を持ち込んで人間関係を築くことの虚しさ
関係の枠が友達なら、子が優秀とか特別だとか、優劣を決めることでつながりにも上下をつけるのは、身勝手なことだと感じます。
今回のことで佐和子さんが痛感したのは「その人そのものを大切にするんじゃなくて、自慢を聞かせて自分をチヤホヤさせるための要員にするような扱いができるって、異常ですよね。でも、それを平気でやれてしまう人がいるって現実を知りました」と、歪んだ価値観で他人を利用する人間のおぞましさでした。
引っ越すと話す佐和子さんに、園で愛想笑いをして「がんばってね」と言いながら、裏では「貧乏くさい人」と陰口をたたきあう、そんな世界は、まともとは決して言えません。
「まだグループには仲のいいママ友がいて苦しんでいるのを聞きますが、本当に虚しいなと思います。いままで、人とのつながりは大切にするべきだと思っていましたが、こんなグループに限っては関わらないことが一番よくて、関係は自分で選んでいく意識も重要だと学びましたね」と、佐和子さんはさっぱりとした笑顔で言いました。
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