人の持つ無意識的な認識能力
リベットはこの無意識に関しても面白い実験をしています。
それはゼロから750ミリ秒の間の電気パルスをランダムに発生し、被験者は「刺激が感じられた」「不確か」「何も感じていない」のいずれかを答えます。
この結果、被験者には刺激があったと感じられない14~150ミリ秒の刺激で、正答率が50%を超えました。これが、やはり被験者には刺激が感じられない150~260ミリ秒の刺激になると、正答率は75%に上昇したといいます。
つまり被験者は刺激を意識なしで検出しているわけです。私たちは意識的な認知機能とは別に、物事を無意識的に検出し認識する機能も備えているようです。これは人のサブリミナルに影響を及ぼせる証拠になるでしょう。
人に自由意志はあるのか
最後に、今回の表題にもした自由意志に関するリベットの実験を紹介しておきましょう。
リベットは被験者に対して自分がやりたいと思ったときに急激な手首の屈曲運動を行うよう指示しました。この時の脳の活動と手首の運動、さらに被験者が手を曲げようと思った瞬間、それぞれを記録しました。
すると驚いたことに、被験者が手首を曲げようと意識した約350~400ミリ秒前に、脳が活動を始めていたことがわかったのです。
具体的には、被験者が手首を曲げる約150~200ミリ秒前に、曲げようとする意識が生じ、さらにそれよりも約350~400ミリ秒前、要するに手首の屈曲運動から約550ミリ秒前に、いま動こうという活動が脳内に生じていました。
となると、「いま動こう」という意思は無意識に根ざして始動したものであって、意識あるいは自己が調整管理したものではない、という驚くべき結論に至ります。つまりいまの動きは、決して自由意志で動いたのではないのだ、と。
ただしリベットは、自由意志は意志プロセスを起動しないものの、その行為を直前で中止することはできるとして、自由意志の存在を擁護しています。
このようにリベットの実験は、私たちは「いまを生きている」という信念を揺るがせます。
私たちが持っていると信じている自由意志に対して疑問を投げかけます。これらが単なる思惟だけでなく、実験から導き出されたところに、大きな意義があるのだと思います。
- タイム-オン理論
- 人は0.5秒前の世界を経験している。
- image by:Unsplash
- ※掲載時の情報です。内容は変更になる可能性があります。