それは「図々しさ」ではないの?
「当たり前のように聞いてきたママ友に、どう答えていいかわかりませんでした。おすそ分けをすることはさすがに考えていなかったし、それを言われるともまったく考えていなかったです」
すでに盛り付けも終わり、そもそも家族で食べる量しか作っていなかった山口さんは、「ごめんね、分けられる量じゃないから…」と何とか返したそうです。
すると、2種類の味付けで用意した鶏肉に目をやったママ友は、「これなら大丈夫じゃない?」とさらに言葉をかけます。
「テーブルにはほかにもエビマヨや生春巻きが並んでいて、お皿に盛られたそれは崩せないとわかって、まだ何とかなるのが唐揚げだったのだと思います」
そのときのことを思い出しながら、山口さんは暗い表情で続けました。
「それは子どもたちが好きな味付けで、たくさん食べてほしいから」と口にする山口さんに、ママ友は「そうなの」と落胆したように肩を落としたそうです。
あなたの作る唐揚げはおいしいからと言ってくれるのはうれしいけれど、クリスマスのごちそうまで「おすそ分け」を求めるママ友に、山口さんは戸惑いが強かったといいます。
「普段はこんなことはなくて、何かをねだられた記憶もありません。どうしてそのときだけこんなにしつこくおすそ分けを求めるのか、わかりませんでした」
つまらそうな顔でテーブルから目をそらすママ友を見て、「図々しい」という気持ちが湧くのを山口さんは感じたそうです。
言い捨てられた言葉
時計を見たママ友は、「迎えの後は買い物しなきゃいけないから、そろそろ行くね」と立ち上がります。
子どもたちのお迎えは仕事帰りの夫が行くことになっていた山口さんは、「気をつけてね」とぎこちなく言いながら玄関まで送りました。
少しの気まずい空気を感じながら、それでもあしたからはいつも通りのお付き合いができるだろうと、山口さんは考えていました。
ドアから出るとき、振り返ったママ友は「あんな料理さあ、手間も時間もかかるし、買ったほうがコスパがいいよね」と笑いながら口にしたそうです。
「コスパ?」思いがけないママ友の言葉に、山口さんはびっくりして聞き返します。
「作れるのはすごいと思うけど、買うのが早いし無駄もないでしょう」。そうママ友は続け、そのまま出ていきました。
気合いを入れて作った料理を「コスパ」で判断されたことに、山口さんは大きなショックを受けていました。
「それはただの悔し紛れでは」と筆者は思わず口を挟んでしまいましたが、おすそ分けがなかったことの嫌味にしてもそれはない、と思ったのが正直な感想です。
ママ友の家にやってきて目の前にあるごちそうをねだる、仲がいいならそういう場面もあるかもしれませんが、クリスマスのような特別な日までそれをする自分に何の違和感も持たないのか、疑問でした。
筆者の感覚では、それは「たかり」と同じだからです。