「ねぇ、ふたりで温泉行かない?」
友人のリコ(仮名)からそんなLINEが来たのは、まだ新型コロナウイルスの感染者が日本で確認される前のこと。
「どうしたんだろう、めずらしいな」とは思ったが、詳しい話は聞かず、日程を調整し、箱根に1泊旅行に出かけることにした。
児童館で意気投合した私たち。そこからお互いの家を行き来するようになり、近場へのお出かけや子連れ旅行はしてきたけれど、子どもなしでの旅行なんてお互い初めて。
「子どもたちも少し手が離れたんだな」という嬉しさと、ちょっぴり寂しさを抱えながら、箱根ロマンスカーに乗って、目的の宿に向けて出発した。
夫といると、息がつまるんだ…
新宿駅のホームで待ち合わせて、お弁当と缶チューハイを買い込み、ロマンスカーが新宿を発つや否や、リコが「はぁ〜、ようやく解放された…」というひと言に端を発するように話し始めた。
リコ:「最近さ、パパと同じ空間にいると息がつまっちゃって…」
筆者:「え?なんで?」
リコ:「うちのパパさ、亭主関白じゃん?何かそのことで無性にイライラするのよ」
リコの口ぶりは荒い。
リコの夫であるゲン(仮名)は、不動産会社を経営している。といっても、社員は自分ひとり。マイペースな性格ゆえに、「人と一緒に仕事をするのは向かない」らしい。
でも、前のめりな性格と、抜きん出たコミュニケーション力を武器に、バリバリと顧客を開拓し、人脈を拡げ、いつも忙しくしている印象だ。夜の付き合いも多いらしく、家事育児のほとんどはフルタイムで介護士をしているリコが担っている。
それだけではない。夫の不動産会社の事務もリコの仕事。本業の介護士に、育児、家事、夫の会社の事務仕事…、ダブルワークどころの話ではない。それに加え、簿記の資格を取るため勉強中というのだから頭が下がる。
いつも忙しそうにしているリコ。それでも愚痴や不平・不満を口にすることはなく、にこやかに淡々と日々を過ごしている(ように見える)。「どうしてそんなに穏やかでいられるんだろう?」と不思議に思ったことは数え切れない。
夫のモラハラと「夫源病」
でも人間、誰しもキャパシティというものがあるのかもしれない。ロマンスカーのなかでリコの話を聞いていると、そう思えてきた。リコは、バーンアウト寸前だった。そしてそれに拍車をかけていたのが、夫のモラハラによる「夫源病」じゃないかと思った。
この「夫源病」とは医学的な病名ではなく、大阪樟蔭女子大学教授である石蔵文信氏が、患者さんを診察しているうちに気付き、命名したもの。
その名の通り「夫」が「源(原因)」となり、妻の体や心が不調になる病気のことを指します。夫の何気ない言動、モラハラ的な行為、夫の存在そのものが妻にとって強いストレスになってしまい、ホルモンや自律神経のバランスが崩れ、めまいや頭痛など心身に症状が現れる。また妻から夫への場合は「妻源病」とも呼ばれている。
今回、リコが私に話してくれた内容から「夫源病の原因じゃないか」と思う内容を、本人の許可を得て、少しだけご紹介しよう。