日々の中でついついネガティブシンキングになってしまう時は誰にでもあるはず。「ポジティブに考えなきゃ」と思っても、意外と簡単なことではありませんよね。
メルマガ『久米信行(裏)ゼミ「大人の学び道楽」』の著者である久米信行さんの元には、「ポジティブシンキングや前向き思考を保つために心がけていること」について質問が届きました。
数々のキャリアを持つ久米さんが考えるのは「ネガティブな一面も大事」ということ。この意外な回答について、久米さんの考えを見ていきましょう。
Q. ポジティブシンキングやアンガーマネジメントのコツは?

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久米先生をはじめとする経営者の方々はポジティブシンキングや前向き思考の方が多い印象を感じますが、この状態を保つため先生が心掛けていること(アンガーマネジメントや息抜きの方法といった自己管理)があればぜひ教えていただきたいです。
A. 陰陽は表裏一体。時と共に波打つと心得て、平常心を保つ。陰の時しかできないことを地道に行う。情的向美心で日常に小さな美を見出す。
もしも私がポジティブシンキングで前向き思考の人、さらにはアンガーマネジメントに長けた人に見えたとしたら、それは光栄なことです。
しかし、実際にはちょっと違いますし、むしろ後ろ向き志向で短気な自分ともつきあい、時に活用しながら、平常心を保つようにしています。
陰陽は表裏一体で両方とも同じぐらい重要
ポジティブシンキングや前向き思考は大切だと思いますが、同時に炭鉱の中のカナリアのように、危機に敏感で臆病な気質も、か弱き中小企業経営者の私には必要でした。
それは、好むと好まざるとに関わらず、バブル崩壊に代表されるように、みんなが陽気に浮かれた後に悲惨な結末が待っていた現実を、何度も繰り返し見せつけられてきたからでしょう。
みんなが「よい」と思うものに「?」をつけ、みんなが「アクセル」で加速する時に「ブレーキ」を踏むような、ネガティブシンキングや後ろ向き志向も、企業と自分を護るためには必要なのです。
逆に、みんながもうだめだという時や、まだ早いと思っている時に、ひとり「アクセル」を踏んで先行する真のポジティブシンキングや前向き思考は、もちろん大切です。
こうした人の逆を行く「あまのじゃくでヒネクレた気質」があったからこそ、失われた30年と呼ばれる厳しい経営環境の中で、かろうじて私は生き延びてこれたのだと思います。
陰陽は時と共に移ろい巡りゆく波だと心得る
しかし、学生時代に半ば鬱だった私が、人より陽気に生きられているのは、数々の修羅場を味わったことで、ちょっとしたルールに気づいたからです。
そのルールはエビデンスがあるわけでも証明されたわけでもなく、単なる私の経験則にすぎません。
それでも、「世の中こんなルールで動いている」とタカをくくり「悩んでも仕方ないことがある」と納得することで、余計なストレスを感じずに生きられています。
- 楽しいことと、辛いことは、長い目で見れば、同じぐらい起こる
- それらが、いつどのような形で起こるかは、多くの場合わからない
- それらが、自分に起因して起こる場合もあるが、不可抗力による場合も多い
- 努力していなくても叶う場合もあれば、努力しても叶わない場合もある
- 楽しいことが続けて起きることもあるが、逆に辛いことが続く場合もある
- しかし、楽しいことも、辛いことも、そればかりが長続きすることはない
- よって、楽しい時に喜び過ぎず、辛い時に悲しみ過ぎず、次の波に備える
一言で言い換えるなら「人生は、人智が及ばぬ波を繰り返す海のようなもの」だと考えています。
そして「波は絶えず繰り返すもの」であり「波にのまれない」ように心得れば、喜び過ぎた後の絶望を味わわずに済むでしょう。
好調時にブレーキ、不調時にアクセルを踏んで、平常心を

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ですから、世相や自分の運気が上昇中でポジティブな局面では、次なるネガティブな局面に備えて謙虚になり、時に最悪の事態も予想してブレーキを踏むなど悲観的な行動をするようにしています。
逆に、世相や自分の運気がどん底な時こそ、次なるポジティブな局面に備えて大胆になり、自分の強みを磨きつつ新たなことにハンドルを切ってアクセルを踏むような楽観的な行動をするのです。
口でいうのは簡単ですが、同調圧力が強い日本で、しかも慣れ親しんだことに逆行する「逆張り」の行動を取るのは難しいものです。
そこで、ブレーキやアクセルをかなり強く踏んでいるつもりで、ちょうどよい塩梅のニュートラルなポジションに戻れることが多いと思います。
こうして次なる波を先取りして、平常心を取り戻すニュートラルポジションの維持こそが、予測不能の波が立ち続ける大海で溺れないコツだと思うのです。
怒りを人への恨みではなく、自分の活力に変換するアンガーマネジメント
波を先取りして、好調時にブレーキ、不調時にアクセルを踏んで、新奇な行動をすることは、多くの場合、周りの人に理解されません。
理解者は2:6:2の法則の2割にも満たないでしょうし、もしも1割が理解してくれたら奇遇であると感謝してもよいぐらいです。
「なんで誰も理解してくれないんだ」と怒りたくなる気持ちは、もちろん私にもあります。
しかし「古今東西のイノベーターやリーダーは、改革時には常に理解されずに足を引っ張られる」と考えてみてはいかがでしょう。
「理解されない」ということは「新しいことを始めている証拠」であり「自分を鍛える絶好のチャンス」だと思うのです。
人々の無理解や妨害、そして時には信頼していた同志の離脱や裏切りも含めて、他者に向かいがちな怒りを、自己革新へのバネにすることは、むしろ自分を成長させる人生プログラムの一環だと思えばよいのです。
そうすれば、理解もせずに罵倒した人たちの顔を思い浮かべて恨むかわりに、自分が憧れるリーダーに習って、未来に通じる孤高の道を歩み続ける志が固まるでしょう。
そのためにも、自分が目指す偉人の自伝を読み漁ることをおすすめします。きっと、自分が抱えている問題や、そこに対する怒りなど、ちっぽけなものであり、ごく初歩的な通過儀礼だと理解できるでしょう。
息抜きではなく、情的向美心で日常に美を見出すお散歩習慣を

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息抜きというと、メインは仕事であり、その合間の休憩というイメージがあります。
私がおすすめしたいのは、人が幸せになるために仕事と同じぐらい重要なことです。それは、ありきたりの日常に美を見出す「情的向美心」が日々発動するような行動習慣を身に着けることです。
経営者は、どうしても仕事中心の生活となり、合目的的に課題解決をするために「知的好奇心」優先で活動している場合が多くなります。これがストレスをため込む一因だと考えています。
そこで、その場その場で、目的もなく、ただ目の前の美に浸る「情的向美心」優先の活動を、忙しい日常の中に組み込む必要があると考えます。といっても決して難しいことではありません。
職場や家の近く、あるいは通勤途上で、自分好みの公園や街並みなどを見つけて、毎日散歩を楽しむだけでよいのです。
散歩の時は、仕事のことは忘れて、その場の雰囲気を五感で楽しんでみてください。
同じ公園でも、四季折々、日々刻々、草木も花も姿を変えていることに気づくはずです。たとえ大都会の真ん中にある公園でもそれは変わりません。
私は丸の内のビル街で働いていた時、身心の不調を感じて、お昼休みに、日比谷公園まで散歩して、お弁当を食べるようになって復調しました。
そして、自分は自然から遠ざかっていることを悟り、ベンチに座ってぼーっと景色を眺めているだけで幸せになれることを発見しました。
さらに、お気に入りの場所やテーマを見つけて、毎日、写真を撮りためたり、感じた言葉を書き留めたりすれば楽しみも増えます。SNSに投稿してもよいでしょう。
電線クラブ、電灯クラブ、水面クラブ、葉っぱクラブ、巨樹クラブなど、写真を撮りたくなるテーマを設定することで、仕事などで移動している時の楽しみが増えました。
素敵な鉄塔や電灯の写真が撮れるだけで、その日、一日よい気分になるから不思議です。
こうして、幸せの種は、毎日、目の前にあって、心ひとつで見つけられることを日々体感すれば、仕事上の大きな悩みが逆にちっぽけにさえ思えてくるのです。
こうしたストレス解消を兼ねた「情的向美心」のさりげない鍛錬こそ、特にAI時代に経営者にとって重要となる感性や直観の発揚になると、私は考えています。
ポジティブシンキングやアンガーマネジメントは流行のキーワードかもしれません。
しかし、世間の大波に身を任せながらも自分を失わない「平常心」と、日々のあたりまえの暮らしの中で感動を見い出す「情的向美心」が、私にとっては大切なのです。
これからも、「平常心」と「情的向美心」で、予測不能の大転換期と重なる人生最後の年月を、充実させていきたいのです。
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