相談を受けるのが苦手で、責任を感じすぎてしまうという悩み。
メルマガ『結城浩の「コミュニケーションの心がけ」』の著者である結城浩さんは「相手のためになりたい」という思いが、時に相手を支配する気持ちになってしまう危険性を指摘します。
相談を受ける際に大切な考え方とは何か。心がけるべき姿勢とは何か。誠実に向き合うためのヒントをお話ししてくれます。
メルマガ読者からの質問
結城先生、自分は相談をされるのが苦手です。
自分が行う回答に責任を感じてしまいますし、相手の意に沿えているかを気にしすぎてしまいます。
そして結局、無難な回答を選択することになり、薄い内容になってしまいます。
また、自分の考えよりも普遍的な答えを探してしまい、それを無責任と感じることもあります。
自分はもっと相手のためになりたいと思っています。
結城先生は相談を受ける際の心がけをお持ちでしょうか。
結城浩からのアンサー

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ご質問ありがとうございます。
私が質問に回答するときには「相手の質問」を読んでそれを丸ごと受け入れることを心がけています。相手の質問を踏まえた上で、自分が感じたり考えたりしたことを「自分の回答」として提示します。
私はそのような態度がベースにあると考えています。当たり前に聞こえるかもしれませんが、大事なのは「相手」と「自分」の境界線を見極めるところにあります。
「相手のためになりたい」や「無責任になりたくない」というのはたいへん大事なことです。しかしそれは、一歩まちがえると「相手の行動や考えを支配する気持ち」や「相手が負うべき責任を奪い取る気持ち」になってしまう危険性がありますね。
何十年か前に「他人のために祈る」という話題が出たときに、あるクリスチャンの知人が「他人のために祈るときには、その人を支配したいという誘惑に気をつけよう」と言っていたのを思い出します。祈りに限らずアドバイス全般に通じるものがあると思います。
なお、はじめに「丸ごと受け入れる」と書きましたが、それは「相手の言葉にすべて賛成する」という意味ではありません。「相手がいまここでそのように言葉にした事実をそのままの形で認める」という意味です。

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境界線を見極めるというのは、端的にいえば「自分と相手は他人であり、別の人である」ことの自覚です。その境界線を越えて相手をどうこうすると考えるのはおこがましいことです。
自分が相手に「行動Aを行う方がいい」とアドバイスするとき、相手が行動Aを行わない自由を奪ってはいけませんし、行動Aを行わないからといって相手を怒るのも違います。行動Aを行うか否かは相手の側の話だからです。
その一方で「行動Aを行う方がいい」と自分が考えているにも関わらず、それを相手に言うか言わないかは自分の側の話です。
質問してくる「あなた」と回答している「わたし」の境界をぐだぐだにしてはいけないと私は思っています。
「相手のためになりたい」と思っているのはあくまで自分の話です。自分は選択肢を相手に提示することはできますけれど、どの選択肢を選ぶか(あるいはどの選択肢も選ばないか)は相手の話です。
「無責任」という単語が出てきました。相談ごとにおける無責任というのは、告げた方が良いと思っていることを告げないことや、告げてはいけないと自分が思っていることを告げてしまうことです。
極論するなら、相手がどのような選択をして、どのような結果になるかについては回答者は責任を持つことはできません。それは相手の側の自由であり、相手の側の責任だからです。
自分の考えよりも普遍的な答えを探すことがなぜ無責任になるのかはわかりません。普遍的な答えを探し、自分が「確かにそうだな」と思うならば、それは自分の答えと言えるのではないでしょうか。
普遍的な答えを探し、自分がその答えを妥当だと思えなくても「これがいいよ」と答えるなら無責任ですけれどね。

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あなたは質問の冒頭で「相談をされるのが苦手」と書いていました。あなたはよく相談を受けるタイプなのでしょうか。
とすると、あなたはすでに「この人に相談したい」と思われているわけですよね。それは十分にすごいことであり、役に立ち、ためになっていると思いますよ。
迷っていたり、悩んでいたりする場合、孤独はつらいものです。誰か相談する相手がいること。相談したことをきちんと受け止めてくれる人がいること。
そこまでの段階でも非常に大きな意味を持っており、相手の助けになっています。それはすごいことです。あなたが、あなたの思う適切な答えを出せなくても、相手にとって大きな意味を持っています。
あなたが相談しにくる人のためになりたいと願うことはすばらしいことだと思います。そのこと自体を、またあなたが「十分には役に立てないかもしれない」と感じていることそのものを、相談しにきた相手に伝えてもいいかもしれません。
自分が提供できる最善のものを相手の前にそっと置く。そこまでが役目です。そこから先は(相談しにきた相手にもよりますが)相手の側の問題です。
私は、そんなふうに思っています。
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