7月8日は「ナンパの日」。それにちなんで、心理学者でメルマガ『富田隆のお気楽心理学』の著者、富田隆さんが、最近知った新たなナンパの聖地に居合わせた体験とともに、ナンパスポットの誕生と発展の仕組みについて論じられています。
ナンパの聖地とは知らなかった
先日、銀座6丁目のレストランで食事会がありました。この銀座6丁目で驚いたことがあります。JRの高架線に沿ったこの辺りには、ちょっとお洒落な、それでいて値段もリーズナブルな飲食店が立ち並び、今では「コリドー街」などと呼ばれています。コリドー(corridor)という言葉は「廊下」「回廊」などを意味します。銀座から新橋にかけての通りに沿って、いつの間にかこじゃれたお店が集まり、銀座の新たな名所になってしまいました。
しかし、私はその繁栄ぶりに驚いたわけではありません。パーティーにご一緒した女性の方々から、そのコリドー街が実は「ナンパの聖地」であることを知らされて驚いたのです。
なるほど、20時過ぎに食事が終わって店の外に出てみると、通りのあちこちに男性たちがたむろしています。男性たちは何をするでもなく道端に佇み、その前を女性たちが通り過ぎて行きます。彼女たちの多くは丸の内辺りの会社で働いているのでしょう。次々にお店から通りに出て来ます。その若い女性たちを男性たちの視線が追います。残念ながら、声をかける瞬間を目撃することはできませんでしたが、その前に既に呼び止められたのでしょう、二人連れの女性が男性たちと何事か話していました。
思い返せば、18時過ぎにレストランに入った時、店内は女性客で埋め尽くされていました。男性は私たちのグループの3人だけで、ちょっと恥ずかしかったのを覚えています。それが、20時近くになると、女性だけの集団はほぼ店を出て、新たに入って来る客は、男女のカップルが多くなりました。コリドー街が一種の「出会いの場」でもあるということを知れば、この客層の変化にも納得がゆきます。
こうした風景を眺めながら、つくづく、街というものの持つダイナミズムを感じました。お洒落な飲食店が増えると、そこに若い女性たちが集まります。女子高生の場合でもOLさんの場合でも、若い女性の感性はその街の「新しい魅力」を発掘します。そして、彼女たちの強力な情報ネットワークを通じて、すぐにそれらは共有されてしまうのです。
有能な経営者なら、彼女たちのニーズを満たすようなお店を次々に仕掛けるでしょう。こうして、ポジティブな消費と供給の連鎖が循環し始めます。もちろん、街のネイミングや、雑誌記事とのタイアップといった「援護射撃」が、街の認知度を上げ、循環をさらに加速します。やがて、コリドー街が若い女性の集まる場所となれば、それを目当てに男性たちも集まるようになる。渋谷や原宿とはまた一味違った、ちょっと「大人」向けの「ナンパの聖地」が誕生するわけです。
私は、素人が行う自然な「ナンパ」行為を肯定的に見ています。(犯罪絡みの悪質なものがあることも事実ですが)なぜかと言うと、ナンパから関係がスタートして、その後、幸せな家庭を築いたカップルを何組も知っているからです。もちろん、その場限りの出会いに終わったケースもたくさんあるでしょう。しかし、それは当然のことであり、恋愛に限らずあらゆる人間関係は、いずれも「出会い」からスタートし、たくさんの試行錯誤の上に築かれていくものです。
あなたがこれまで貰った名刺の枚数と、その後も付き合っている人たちの比率を考えてみてください。ナンパよりは、むしろ、昨今話題になった「草食系男子」の増加の方が忌々(ゆゆ)しき事態ではないでしょうか。もしも、若い男性が魅力的な女性に声をかけるということを全くしなくなったとしたら、それは、人類という動物種の衰退そのものを象徴していることだと思います。
銀座という、今や有名ブランド店と外国人観光客に占拠されつつある街の一角に、こうした活気のある食と社交の場が発展しつつあるということは、まだまだ日本にも潜在的なパワーが残っていることの証ではないでしょうか。
その日、ついついの勢いで、二次会まで参加してしまった私は、終電に近い混雑した電車に揺られながら、何となく上機嫌で家路をたどりました。
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- ※初出:2019/07/08・MAG2NEWS
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