選ばれるための、芸
「メスはキレイにしなくてもいいんじゃ」そういっていたのは、うちの母方の祖父でした。
もう亡くなりましたが、祖父は鳥類の研究をしており、自宅にいろんな鳥を飼っていました。
なかでも目立つのが「クジャク」です。
翼をブワッと広げたときの姿はもちろん、抜け落ちた羽根にも光沢があって美しく、祖父母の家に行くと、よくお土産でクジャクの羽根をもらって帰っていました。
そんなクジャクについて、子どものころに知って驚いたことのひとつは、キレイな羽をしているのはオスだけであるという事実でした。
メスは黒っぽい地味な羽をしています。
なんでオスだけ…?と祖父に聞いたところ、「メスはキレイにしなくてもいいんじゃ」といわれたのです。
要は、繁殖期にオスがメスの気を引くものだから、メスにはその羽は必要ないということなのですが。
「芸」ということについて考えたときに、私がまず思い出すのが、この「クジャクの羽根」のことです。
派手なオスがメスに好かれ、選ばれていったことで、オスの羽があんなにキレイに進化したわけです。
世代を越えた種の「芸」の姿ではないかな、と思いませんか?
芸=人に魅せる技術
そもそも「芸」とは何なのでしょうか?
その定義は人それぞれだと思いますが、私はこんな風に考えています。
「人を魅せる技術」
たとえば、ピアノを弾くのが大好きで、弾いている時間が心地いい。別に人に聴かせるものじゃなくて、自分が楽しければそれでいい。そんな人にとって、ピアノは趣味ではありますが、芸ではないといえるでしょう。
一方で、もうピアノなんて見るだけでも嫌だ、できれば触りたくない。でも私が弾けば聴いてくれる人がいるし、それで収入を得ている、という人にとっては、ピアノは芸であるといえるでしょう。
ピアノや絵画を教室で習っている人は、年に数回「発表会」があると思います。発表会に出ることは、自己満足の世界から「芸」に羽ばたこうとしているような感じでしょうか。
それで収入を得ている人もいれば、無報酬の人もいますが、収入の有無に関わらず「人に魅せるためにすること」はすべからく芸事といえるのではないでしょうか。
そう考えると、男子高校生がモテたくてギターを始めて、そんなにモテないとわかって辞めるのも、芸のひとつだといえるのかなと…。
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