Eさん(男性・50代)のケース
Eさんは、学生時代から真面目にコツコツと地道に頑張ってきたおかげで、会社に勤めてからも同期と比べて早く昇進していきました。職場では部下に慕われ、上司からは頼られ、大きな案件の仕事も任されるような重要なポジションにいたのです。
ですが、最近、なぜか仕事に集中できない。気持ちの整理がつかない。部下からの相談されたことに明確に指示が出せない…。要するに、自分に自信がまるで持てなくなったのです。
きっかけは、父親が病死したことでした。
実はEさんの父親はアルコール依存で、母親に暴力を振るうような人だったそうです。
そんな破滅的な家庭環境を見ないように、学校から家に帰るとすぐに部屋にこもって勉強したそうです。
自分が勉強してトップの成績でいれば、「もしかしたらダメな父親も更生してくれるのではないか?」とか「虐げられた母親が喜んでくれるのではないか?」という淡い期待があったそうです。
なので、家にいるときはもちろん、学校でも「優等生」を演じるようになり、先生からも親戚からも称賛されたそうです。
そうやって歪んだ成功体験を積み重ねたEさんは、大人になっても同じように「いい子を演じること」で、自分の身を守ろうと頑張ることが無意識の習慣になります。
完璧な社会人、完璧な夫、完璧な父親を演じ続けてきたのですが、演じる大元となっていた父親が亡くなったことで、Eさんは「頑張り続ける意義」を見失ってしまったのです。
Eさんは幼いころから、母親から密かに「お父さんのようになってはいけない」「立派な人にならなければならない」という重圧を、ことあるごとに背負わされていたそうです。
その重圧に耐えて頑張ることで、実際に周囲の人からも認められてきた。頑張ることで、自分の居場所を作ってきた。
こうした過程で、Eさん自身、いつしか人から称賛されるような結果を出さなければ自分の存在意義、存在価値はないと思うようになり、
- どんな成績を出したか
- どんな結果を残せたか
- どれくらい人から称賛されたか
などが生きる上での重要な判断基準になっていきました。
そうやって、「自分らしさ」はどこかに置き去りにしたまま、「親が期待するいい子の自分」を演じているうちに、本当にありのままの自分のことがわからなくなってしまっていたのです。