「自分の価値基準」を知るために
父親が生きているうちは、いい子を演じることが当然過ぎるくらい当然だったため、本当の自分がどうしたいかなどと考える必要もなかったのですが、父親が亡くなり、いい子を演じる必要がなくなったことで、Eさんはこれから何を基準にどう判断すればいいのかといった判断軸そのものを失います。
なので、仕事で何も決められない。何をどう考えていけばいいのかもわからない。混乱して仕事が手につかない…。こんな状況に陥っていったのでした。
これまでは「いい子を演じる」という、情緒的には不健全ではあるにしても、寄りかかる判断基準がありました。
でも、それがなくなってしまったEさんは、改めて「ありのままの自分の判断軸(自分の価値基準)」を再度構築して行く必要がありました。
その作業は、これまでの自分のアイデンティティを土台から崩すように感じることもあり、かなりの辛い作業になったのですが、それでもこれまで培ってきた「頑張り力」を発揮して乗り越えることができたEさん。
これまでのように、何かに追い立てられ、焦りながら頑張るということはやめ、自分のペースで仕事に取り組みながら、まわりから信頼される人としてイキイキと仕事してます。
こんなふうに、「親の期待するいい子を演じさせられること」は、ある意味、「心の拠り所となる生き方のひとつの指針(道標)」となる肯定的な側面もありますが、「ゴールのないエンドレスのいい子地獄」に陥り、怒りや恨みつらみを抱えながら最後には燃え尽きてしまったり、自己の信頼感を喪失して絶望してしまうという悩ましい状況を生み出してしまうことは少なくないのです。
もしもあなたもEさんのような悩ましい状況から抜け出せずにいると感じているなら、いま、あなた自身が背負っていると感じているものを書き出し、「背負いたいから自ら背負っているもの」と、「本当は背負いたくないけど、背負うしかないと思って仕方なく背負っているもの」を一度整理してみるといいかと思います。
そうやって、本当は背負わなくてもいいものを降ろして、少しずつ身軽になっていくと、ありのままの自分が本当に大切にしたいこと(自身の価値基準)が少しずつ、でも確信的に見えてくるようになりますから。
次回の『「毒親の呪縛」を本気で断ち切る実践トレーニング』は2021年8月25日公開予定です。
【連載】『「毒親の呪縛」を本気で断ち切る実践トレーニング』
【1】「生きづらさ」の根本にあるものは…?私の幸せを阻む「毒親」の呪縛
【2】私は「毒親」育ちだったのか?いま、生きづらさの原因を考える30の質問
【3】親の不仲も不機嫌も「自分が悪いせいだ」と思って育った、毒親育ちの人へ
【4】毒親に言われ続けた「あなたのため」。その支配から抜け出すための、はじめの一歩
【5】わけもなく不安になる。毒親育ちが無意識の苦しみを手放すためのワーク
【6】人が怖い、居場所がない、価値がないetc…毒親育ちの持つ悩ましい感覚
【7】私は何をやってもできない人だ。毒親育ちの悩ましい思考の手放しかた
【8】だから僕は、人が怖い。毒親育ちが「生きづらい」人生から抜け出すまでの道のり
【9】離婚したのは、僕のせい?「親の離婚」で傷ついた心の癒し方
【10】それって本当に子どものため?親の「責任」と「過干渉」のボーダーライン
【11】家庭内につくられたヒエラルキー。子どもを弱者に仕立て、支配する親たち
【12】対人関係がシンドイ。側から見ると順風満帆な彼の人生が“難あり”なわけ
【13】支配的な父親に従ったエリート役員の人生が、中年期に危機を迎えたわけ
【14】父親のDVは家族だけの秘密。なぜ毒親家庭は崩壊していくのか?
【15】愛情と苦痛はワンセット。大人になっても抜けない毒親育ちの思い込み
【16】いい親子関係を築けなかった子は、友人関係や恋愛でつまずきがちなのか?
【事例1】鬱の母と、子に頼る父。毒親と共依存していた彼女が、親子の縁を断ち切るまで
【事例2】気づけば、3度目の離婚。彼女が「ダメンズ」ばかりを選んでしまったワケ
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