キャリアにおいて苗字が変わるのは商標を変えるようなもの
次に、夫婦同姓に賛成の人の意見として、「女性の社会進出が進んでも、仕事では通称として旧姓を使えばいい」みたいな話があります。
これ、はっきり言って、女性の社会進出を見下しているとしか思えません。なぜなら仕事においても、何となく夫婦別姓を選んでいるわけではなく、それなりの理由があるから選んでいるのです。
私の場合は、垣屋美智子でキャリアをスタートし、ある程度、垣屋での実績も持って結婚したので、結婚後に名前を変えるほうがリスクという考えで、姓を変更する選択肢はありませんでした。
キャリアにおいて、名前は商標ですよね。離婚する可能性だってあるのに、後々手放すしれない名前に商標を変えなきゃならないのでしょうか。
そのほかにも、「結婚したら寿退社?いつ出産?」と仕事関係者に思われるのも非常に嫌でした。
ちなみに、「結婚前にある程度、垣屋で実績があった」と書きましたが、実際、私は20代で結婚していますし、結婚時の実績と言ったってそれは自分を尺度にした実績です。でも、自分にとって名前を変えるほうがリスクと感じた時点でリスクなのです。
最近では独身時代に仕事で関わった人と15年ぶりに仕事をしたりする機会も増えており、名前を変えずに仕事をしてきたことは正しかったと思っています。
会社役員や資格を生かした仕事など「通称利用の限界」に目を向けてほしい
これだけ説明すると旧姓を通称として利用するのも問題ないと思えるかもしれませんが、キャリアが進むにつれ、通称で垣屋美智子を続けるのに無理が出てきています。
投資銀行時代、運用アドバイスをするのにはライセンスが必要ですが、「垣屋美智子は通称で戸籍名はこれで同一人物です」というために、常に戸籍謄本の提出が求められました。
いまは自分の会社を持っていますが、会社の代表者は垣屋美智子ではなく戸籍上の名前になります。なぜなら、会社の登記において旧姓併記はできますが、あくまで併記可能というだけで、戸籍上の名前が必須だからです。なので、垣屋美智子が代表の会社って、調べてもらっても出てこないのです。
このせいで、最近、上場企業との取引のために会社が審査を受けた際も、念のための確認ということで姓についての問い合わせが入りました。
さらに銀行通帳は旧姓NGなので、会社の口座であっても代表者は私の戸籍上の名前です。名刺は垣屋美智子なので、常に本人であることを証明する必要があります。
このような理由で、私は常に戸籍謄本3部を持っていて、いつでも原本が送れる準備ができています。しかし、戸籍謄本を提出するということは、自分の両親の名前、自分の出生地、いつ誰と結婚してというのが全てわかるのですが、本来、本人確認とは免許証のコピーで済むものなのに、こんなにプライベートをさらけ出す必要があるのか…常に嫌な気持ちになります。
ちなみに私のパスポートは2013年から旧姓併記ですが、旧姓併記の存在が一般的になっていないので、結局戸籍謄本も出す結果になるのがいつもの状況ではあります。
いまは、免許証にも旧姓併記が可能になりました。こちらもまだ認知されておらず、「結局戸籍謄本を出す必要があるんじゃ…」という懸念もありますが、免許証の切り替えのタイミングで検討しようと思います。
ただ、旧姓併記はあくまで併記なだけで、今後、私の会社がどれだけ活動しても、契約書など法的なものになればなるほど垣屋美智子という表記は必要なくなります。
ですから、事業がうまく進めば進むほど自分の中でも戸籍上の名前を使うケースが増えてきて、いま現実と法律の狭間で違和感を感じながら会社経営を行っており、社会生活を送っています。
政府の重要ポストにはまだ女性も少なく、あまり現実世界で旧姓使用が進むことでの弊害というのがわかっていないのかもしれません。しかし今後、旧姓の通称利用が進むなかで、本当のところ誰なのかわからない問題というのは大きくなると思います。