「力仕事だから男性にお願いしたい」「女性目線での意見をもらえないかな」
そんな風に自分の性別を理由にしたお願いが、あなたにあったとき。
「男性じゃないんだよなぁ」「女性じゃないのに…」と感じたことはありますか?
多くの方の答えは、おそらく「No」かと思います。
今回は筆者を含め、性自認(自認している性別)と生まれ持った身体の性別が異なる人に対して行われることがある、「ミスジェンダリング」についてお話します。
「ミスジェンダリング」とは
ミスジェンダリングとは、本人の性自認(自認している性別)とは異なる性別でその人を扱うこと。
冒頭のように、性自認と生まれ持った身体の性別が異なるトランスジェンダーが受けることの多い、差別的な行為のひとつです。
- 性自認が男性で生まれ持った性が女性である人を、女性として扱う。
- 性自認が女性で生まれ持った性が男性である人を、男性として扱う。
- 男女どちらの性別も自認していないXジェンダーやノンバイナリーを男性もしくは女性として扱う
具体的には上記の1~3が当てはまるほか、性自認と生まれ持った性別が一致しているシスジェンダーのかたが自認する性別と異なる性別で扱われることがあれば、それもミスジェンダリングに当てはまります。
意図的に異なる性別で扱うことは、たとえ冗談であっても看過できません。
場合によってはトランスフォビア(トランスジェンダー当事者やトランスジェンダー全般に対する否定的な感情や行動)であり、明確な悪意ある差別行為です。
ましてやその場のノリや“ウケ狙い”で、なんてもっての外。
今回はそんな悪意のない状態で、ミスジェンダリングをしてしまう場合。無自覚な差別(マイクロアグレッション)にあたる部分についてお話しします。
「トキさんって男の人になりたいのかと思ってた」
2年前、身体の性が同性であるパートナーの存在をオープンにして、いまの会社に転職。
面接の段階でカムアウトをしているので、近い上司や同僚はもちろんそのことを知っています。
受け入れてくれているので、これまで存在を隠さなければならなかったパートナーのことを、友人やルームメイトだと偽ることなく彼女とのことを話せる。それだけで本当にありがたい環境だなと感じています。
ある日上司から、「セクシュアルマイノリティのことを聞きたい」と相談を受けました。
はじめに説明しておくと、上司は興味本位ではなく、あくまで筆者が働くなかで嫌な思いをしないために知っておきたいという理由で、相談を持ちかけてくれました。
働きにくいと感じることはないか、不安はないかと聞かれ、僕のセクシュアリティを開示をするなかで言われたのが、先の「トキさんって男の人になりたいのかと思ってた」という一言。
このときまで上司は、筆者のことを性自認は男性で生まれ持った身体の性別が女性の「FtM」だと思っていたそうです。
たしかに筆者のパートナーは女性で、身体の別でいえば同性。髪型はメンズカットで服装もメンズ服を着て働いてはいますが、手術で胸を切除しているわけでもないし、顔立ちも女性とわかる顔立ち。
なので「おそらく女性と思われているのだろう…」と思っていた部分もあり、少し驚いたミスジェンダリングでした。
これまでの上司との関係性から、このときのミスジェンダリングが悪意のない無自覚のもの(マイクロアグレッション)であることは、明確でした。
なのでそれは誤解であると訂正し、上司も勘違いをしていたとすぐに謝ってくれました。
このように、パートナーが身体の性別が同性であると、性自認が身体の性別にとっての異性(筆者の場合は男性)だと思われることがあります。
身体の性別でいうところの同性愛者は、必ずしもトランスジェンダーではありません。
性自認と身体の性別が一致しているレズビアンやゲイのかたはたくさんいるのです。
衣服や髪型などで表現している性別(筆者の場合はやや男性寄り)が異性のものであっても同じこと。
身体の性別が女性のかたがメンズファッションを好んでしているとしても、その人がFtMやXジェンダー、もしくは性自認は女性の場合ももちろんいるはずで、第三者が勝手に決めつけることはできません。
見た目だけでわかるとは限らないのです。
ミスジェンダリングの問題点
なぜミスジェンダリングが差別的で問題とされているのか。
この記事を読んでくださっているあなたの自認する性別と生まれ持った性別が一致しているとして、もしいきなり「あなたは女性(もしくは男性)だから」と異性として扱われたらどうしますか?
「違います」と訂正したいのではないでしょうか。
それは、ミスジェンダリングをされた人も同じです。
どんな性別の人にとっても、ジェンダーは自分の根底にある大切なアイデンティティ。それを望まない性別を表す代名詞で呼んだり、自認する性別と異なる性別で扱うことは、大げさな話ではなく尊厳に関わるほどの傷つきに繋がる可能性があります。
前述した筆者のエピソードは、ミスジェンダリングを受ける以前からの信頼関係があり、なおかつ訂正後すぐに謝ってくれたから、たまたまそこまでの傷つきにはなりませんでした。
しかし、もしも上司の言い方が筆者を茶化すようなものであったら、当然信頼はなくしていたと思います。さらに悪意を感じていたら、差別だと感じていたでしょう。
ミスジェンダリングを防止するには
では、悪意の有無に関わらずミスジェンダリングをしないためにはどうすればいいのでしょうか?
相手のジェンダーを判断しない
大前提として、相手のジェンダーを勝手に想像して判断しないこと。
前述の通り、外見やセクシュアリティからその人のジェンダーは、必ずしもわかるものではありません。
身体の性別や服装などの外見、セクシュアリティ(性的指向)によって勝手に相手のジェンダーを判断してしまうことはミスジェンダリングに繋がるうえ、とても失礼なことです。
呼び方や敬称を確認する
相手のジェンダーを勝手に判断してしまうと、呼び方や「彼/彼女」、「~くん/~ちゃん」といった敬称を誤って選択してしまうことに繋がります。
英語の場合は性別と紐づく「he/she」以外に「they/them」といった、ニュートラルな代名詞もありますが、日本語にはまだ「they/them」のような性別と紐づかない代名詞は残念ながらありません。
Xジェンダーの筆者の場合は、「彼/彼女」のどちらにも当てはまらないと感じているので、「彼/彼女」ではなく「椎名さん」と名前で呼んでほしいと考えています。
なんと呼ばれたいのかは人によって違うと思うので、勝手に決めつけずに呼び方や敬称についても本人に確認を取るといいでしょう。
ミスジェンダリングをしてしまったらどうしたらいい?
間違えてしまったときは、できるだけすぐに訂正し、謝罪しましょう。
自分が意図せず差別的な言動をとってしまったことはとてもショックで、人によっては受け止め難いことだと思います。
しかし、悪意がなかったのならなおさら、弁明せずに訂正することが大切です。
仕方ないかもしれないけれど、当たり前にしてはいけない
Xジェンダーだと公表しているSNSでさえ、「トキさんは“男の子”だもんね」と言われてしまうこともあります。
同性のパートナーがいる=FtMもしくはMtFではという勘違いは未だ少なくないと感じています。
ミスジェンダリングをしてしまうかたの発言からは、発言した人の根底には「男性」もしくは「女性」のいずれかの性別に属するものであるという性別二元論があるのではないでしょうか。
少なくとも、「トキさんが女性ではないと考えているのならば、きっと男性に限りなく近いのだろう」と考えているから、「男の子だもんね」という言葉に繋がるのではないかと思います。
もちろん、その言葉には悪気や悪意はきっとないのでしょう。悪気がないとわかっていて、それを考慮しても、まったく傷つかないでいることは難しいなと思います。
渋谷区でパートナーシップ制度が施行され、ニュース番組や報道で「LGBT]という言葉を耳にするようになったのは2015年。ちょうど9年前のことです。
それまでの人生のなかで当事者に会ったこともなければ、性自認と生まれ持った性別が一致していることが“普通”で“当たり前”の、性別二元論が一般的な世の中で生まれ育ってきた人がほとんど。ミスジェンダリングをしてしまっても仕方がないことかもしれません。
しかし同時に、その当たり前がミスジェンダリングやそのほかの無自覚な差別(マイクロアグレッション)に繋がり、誰かを傷つける要因になっていることは、当たり前にしてしまってはいけないことです。
この記事が、誰かの性別を勝手に決めつけてしまいそうになったときに、一歩立ち止まるきっかけになったら幸いです。
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