クィアマガジン「purple millennium」を運営し、LGBTQ当事者としての経験や考えを発信しているHonoka Yamasakiです。
日本で生まれ育った私は、同性の恋人と付き合いフェミニズムと出会うまで、日本の抱えるジェンダーやセクシュアリティの問題に触れることがありませんでした。正確にいえば、触れることがなかったのではなく、なくて当たり前のものとして過ごしてきました。
社会に潜むあらゆる問題について調べれば調べるほど、知らなければよかったと後悔することもあります。それもそのはず、日本は、ジェンダーギャップ指数156カ国中120位、G7最下位とダントツで低いのですから。
同性の恋人とお付き合いしたことや、就活で女性性を感じさせられるような経験をしたこと。そういった経験をした“当事者”とならない限り、日本に根強く存在する社会問題に気づくことはできないのか、と悩むこともありました。
シンガポールの同性の人と付き合っていた当時は、シンガポールへ旅行する機会が多く、日本やシンガポールにある問題をより実感しました。
と同時に、多様性の国として知られるシンガポールでも、あくまで多種多様な価値観を受け入れるという意味での「多様性」だけではないことを知ることとなりました。きょうは、シンガポールに行くことでより顕著に浮かんできたLGBTQの問題についてお話します。
さまざまな文化や人種が混在した国、シンガポール
同性の恋人とシンガポールで過ごすなかで、外国人かつLGBTQ当事者として感じることがたくさんありました。ですが、外国人旅行客として現地に滞在し、どっぷりとシンガポールの生活に浸ることはなかったため、これからお話しすることはあくまで私個人の視点も含まれることをご理解いただきたいです。
「多様性の国シンガポールに行ける!」
こう胸を躍らせていたことを、いまでも覚えています。現地の空港に着くと、さまざまな言語が飛び交い、さまざまな人種の人たちが行き来していました。たしかに多様な国なのだと実感した瞬間でした。
シンガポールは、東京23区と同じくらいの小さな国。ですが、中華系、マレー系、インド系の民族が混在し、公用語の英語だけでなく、中国語やマレー語、タミール語など、複数の言語で書かれたメニューを目にすることが日常でした。違ったバックグラウンドをもつ人たちとの関わりが大前提となる地での生活は、まさに新鮮でした。
男性間の性行為は違憲
現地を訪れると、街中がきれいに整備され、治安もよく、男女ともにビジネスの領域で活躍している人が多い印象。先進国であるシンガポールのLGBTQ事情はどうなのかと現地の人に話を伺うと、LGBTQに関しては不寛容であることを知りました。
シンガポールでは同性婚が認められないほか、男性間の性行為は違憲であることが刑法377A条で示されています。これに反すると、2年以下の禁固刑が科せられます。
しかし、女性同士の性行為は違憲としてみなされていません。男性同士の性行為を摘発するために警察が捜査に入ることは少なくなったものの、行為を発見した場合は逮捕の可能性は十分にありえるのです。
いま思うと、現地で女性カップルを見かけたものの男性カップルを見なかったのは、この法律が関係していたのかもしれません。
また、オープンに営業しているゲイバーやレズビアンバーはなく、日本と比べるとにぎわいもない印象でした。そもそもセクシュアルマイノリティの出会いの場が圧倒的に少なく、友達によると知人を介して出会うかマッチングアプリを利用する当事者が多いのだとか。
LGBTQ市民を排除するような法律が存在するシンガポール。同性婚を認めないどころか、罰せられる現実を突きつけられた当事者の友達は、権利のために戦う術もないのだと語っていました。そして、この現実がさらにホモフォビア(同性愛嫌悪)を強めることにつながります。
実際、同性の恋人と出かけていたとき、私たちのことを「レズが隣にいて不快だ」と母親が子どもに言うのを目の当たりにしました。ですが、私たちは人権がないので、ただその場を避けるしかありませんでした。
同性愛には保守的なシンガポールですが、2019年に現首相であるリー・シェンロンの甥っ子が同性の恋人と結婚をしたことを発表し、大きな反響を呼びました。ふたりは同性婚が認められている南アフリカの国で過ごしています。
同性婚を認めないシンガポールの首相の甥っ子が同性婚をしたことで、国全土にLGBTQについての認識が広まり、なにより国民や首相自身の視点が変わってほしいもの。ですが、2年たったいまでも新たな動きはみられません。