こんにちは、椎名です。僕は身体の性が女性で心の性は定めていないセクシュアルマイノリティで、女性のパートナーと生活をともにしています。
2024年放送のNHK朝ドラ『虎に翼』でも話題になった“夫婦別姓”。ドラマを観た視聴者の感想が飛び交うSNSのなかに、「同性婚を望む人からすると、結婚できるのに夫婦別姓を望む異性愛者は贅沢な悩みなのかな」という投稿を見つけました。
今回はそんな投稿に、まさに同性のパートナーを持つ同性婚を望むセクシュアルマイノリティである筆者が、アンサーを返すつもりで同性婚と選択的夫婦別姓を望むことについてお話しします。
同性婚だからこそ、ふうふ別姓
はじめに明言させていただくと、「選択的夫婦別姓」を望むことはけっして贅沢な悩みだと思いません。
「選択的夫婦別姓」については2024年6月、ついに経団連が政府へ向けて「選択的夫婦別姓」の導入を提言しました。
現状、旧姓を通称として使用することで起きるトラブルは、企業としてもビジネス上のリスクになり得る事象であり、企業経営の視点から無視できない重大な課題であると指摘しています。
「選択的夫婦別姓」は、生まれ持った性別が同性のカップルの婚姻である「同性婚」と同様、現在の日本ではすることがかなわない、日本の“婚姻”に関する要望であり、課題です。
一見別の問題に感じる「選択的夫婦別姓」と「同性婚」ですが、筆者は前述の通り同性婚を望むセクシュアルマイノリティ当事者だからこそ、全く別の問題とは考えられません。
ましてや、「異性愛者は同性愛者とは違って婚姻できるのに贅沢な悩みだ」なんて。
贅沢と思うどころか、日本で同性婚ができるようになった際、夫婦別姓も選択肢のひとつにできたらと考えています。
まず大前提として、選択的夫婦別姓を求めているのは、異性カップルだけではありません。
異性愛者で選択的夫婦別姓を望むカップルと同じく、筆者のように同性婚をしたいカップルのなかに選択的夫婦別姓を望むカップルは存在しています。
同性婚をしたいからといって、かならずしも同じ姓になりたいわけではないのです。
もちろん同じ姓になりたいカップルもいて、同じ姓になることは素晴らしい選択のひとつであることには変わりません。
別姓を望む理由は異性愛者であっても同性愛者であっても、カップルによってさまざま。
経団連の提言にあるように、資格やキャリアなど仕事上で生じる不便やトラブルを回避するためといった理由のほか、自分の姓が気に入っているから変えたくないといった個人のアイデンティティに由来した考えはパートナーが異性であっても同性であっても関係なく夫婦別姓を考える理由になります。
これに加えパートナーが同性の場合は、選択的夫婦別姓を選ぶことで周囲へ同性愛者であることがバレるリスクを最小限にすることができるのではないかと考えています。
筆者にとってはこの点が同性婚をする際に選択的夫婦別姓を利用する最大のメリットであり、夫婦別姓を利用したいと考える理由のひとつです。
“バレ”防止
多くの場合、何か特別な事情がない限り姓が変わるということは結婚や離婚といった“婚姻”と、密接に結びついています。
しかも、結婚をしたのに周囲に黙っていることは一般的な振る舞いではなく、隠せば隠すほど「どうして言ってくれなかったの?」と言われてしまう。
その言葉が「お祝いしたかったのに」といったポジティブな感情からであっても、隠さずカムアウトができる環境や関係性であったらそもそもでカムアウトをしているはず。
ということは周囲にバレたくないから隠しているわけで、周囲にバレたくないから姓を変えられないといった事態は容易に想像できます。
それがカップルのどちらもが一方であれば、もう一方の姓になればいいかもしれませんが、それが両方となると…。周囲にバレたくないことが理由で、どちらの姓になることも困難になってしまいます。
2015年に渋谷区が日本ではじめてパートナーシップ制度を導入して以来、「セクシュアルマイノリティ」や「LGBTQ+」といった言葉は各メディアでよく目にするようになり、一般的に扱われるようになりました。
セクシュアルマイノリティ当事者自身や話題へのタブー視も、2015年を境に、それ以前まであったいまとそれ以前を比べれば少しずつ薄れてきているかもしれません。
だからといって多くの異性愛者のように、いまの日本で自分のパートナーが同性であると、明らかにして暮らすことができるわけではないとも感じています。
特に筆者は都市部で生活をしていて、職場ではパートナーとの結婚指輪をして働いていて、ライターとしての活動ではこうやってセクシュアルマイノリティだと公言もしている。セクシュアルマイノリティとしてかなりオープンに暮らしている方だと自負しています。
しかし、もしも未だに生まれ育った故郷で暮らし、働いていたらきっと同じようにオープンにして生活をすることはできなかったでしょう。
オープンに暮らせている要因は、あくまでもいまの生活の拠点が生まれ育った故郷から離れた都市部にあるからにほかなりません。
会社や同僚へカムアウトできなかったり、関係が近いからこそ家族や友人たちにカムアウトできないことは珍しいことではありません。いまこの瞬間も、そう考える当事者も未だ多いことでしょう。
もちろん、都市部であっても環境によってカムアウトできない場合もあります。
筆者のパートナーの勤め先も都市部ではありますが、理解を得られにくいと感じていることから同性のパートナーがいることをカムアウトできず、公にしていません。
筆者自身が以前勤めていた企業でも、社内にセクシュアルマイノリティに対する理解があるとは思えない雰囲気があり、この会社で公にすることは不可能だと感じていました。
筆者のようにかなりオープンにして生活をしていても、カムアウトをしにくかったり、そもそもでこの人にはカムアウトをしたくないことは往々にしてあることです。
どんなに近い関係性でも、理解してくれると自信を持つことができない相手へはカムアウトはできませんし、そもそもできることならしたくはありません。
前述のように同性婚で自分の姓が変わることで、カムアウトをしたくない相手に対しても結婚したことがバレてしまうと、芋づる式に同性のパートナーがいることをカムアウトしなければならない。そうなると場合によって望まないカムアウトの強制になってしまいます。
姓が変わること自体の誤魔化しが難しい以上、バレてしまうリスクを考えると結婚をすることのハードルはおのずと高くなってしまいます。
同性婚の実現を望む一方で、導入されたとしてもこういったハードルがある以上、パートナーとの結婚に踏み出せない立場にある当事者は、必ずいます。
だからこそ、同性婚と選択的夫婦別姓の問題は同列の課題として考えているし、異性愛者のカップルだけの贅沢な悩みとは思わないのです。
さいごに
選択的夫婦別姓の導入について、家族のなかで姓が変わってしまうと家族の在り方も変わってしまうのではという意見も散見されます。
しかしこれまで婚姻によって自分の両親とは姓が変わった人たちは、両親と家族であることに変わりはありませんよね。
筆者とパートナーのように、同性婚がかなわないまま(もちろん別姓で)ふたり暮らしをしているカップルも、お互いのことを家族だと感じていると思います。
ステップファミリーで血がつながっていなくても、夫婦別姓で姓が異なったとしても、同性間での婚姻であっても、家族は家族。
全員が同じ姓である家族もそうであるように、数多くある家族の姿のひとつのかたちというだけ。
そのなかに同性婚で夫婦別姓のカップルが加わるのが、そう遠くない未来でかなうことを願っています。
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