ハグやその先は、心を満たすための行為
「心が満たされればそれはもうセックスだよ」本作で筆者が最も心に残った台詞です。
この回に登場する利用客は、30歳を目前としたアラサー女性。彼女はずっと男性との恋愛、肉体関係に縁がありませんでした。彼女がハニータイムを利用した理由は、「してみたい」「他人(ひと)に触ってもらいたい」から。
性欲のために風俗をするだなんて、と彼女は自己嫌悪していました。しかし、性欲を持つのは何も男性だけではありません。性愛を持つセクシュアリティであれば、パートナーの有無を問わず女性が性的な欲求を抱き、触れられたいと考えることはごく自然な感情と願望です。
この回でも性欲を抱くのは悪いことではない、と直接的ではありませんがそういったメッセージを込められているなと感じました。
僕もふいに心が不安定になったとき、人肌が恋しくて意味もなくパートナーに身を寄せ肌に触れ、ハグやその先を求めることがあります。
精神的に安定しているときでも、彼女との営みのあとには安心感が残り、そのあたたかい幸せやときめきがほんのりと翌日も続くことも。これは紛れもなく、心を満たすための行為です。
パートナーとだけ性交渉をする状況は理想的ですが、それが“普通”なのかどうかは僕にはわかりません。成人したふたりがお互い性交渉に同意があれば、相手は必ずしもパートナーでなければならないわけではないと考えるからです。
この回に登場する利用客の女性が抱えていた願望は、単なる性的欲求の解消ではないようにも感じます。
周囲が恋愛をして恋人やパートナーをもち、そのうえで身体の関係を持っている。みんなが通過したそのステップを自分も踏んでみたい。「触れられたい」という思いは、ある意味で疑似的に愛するパートナーとの行為を体験したい、という意味だったのではないでしょうか。
この行為が建設的であるか、自分自身にとって最善であるかは本人にしかわかりません。
人の肌のあたたかさでしか癒せない寂しさは、性愛を持つセクシュアリティの人には誰しもあるのだと思います。たとえ疑似であったとしても自分自身で選んだ体験により彼女の心が満たされ、前を向くことができるのならばその行為に意味はあったのです。
「拠り所の選択肢」のひとつとして…
性風俗産業を肯定的に描くことは、賛否両論あるのだと思います。それについては否定はしません。
しかし、身体のふれあいでしか解消されないものやその悩みを、いまの日本で女性やカップルが解消していくことを直接的に手助けしてくれるものはまだまだ少ないのも現状です。
まだまだ女性が性のことを、たとえそれが自分のなかでは深刻な悩みになっていたとしても、口にしにくい世の中だからこそ、その拠り所の選択肢のひとつとして女性向けの風俗があってもいい。作品のタイトルを質問と捉えるなら、「女性にも風俗は必要です!」と僕は答えたいです。
この記事を読んで、気になられたかたはぜひコミックスも読んでいただけると嬉しいです。
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- ※記事本文を一部修正しました(2023/04/21)