頼りない夫と、義父の言葉
「そのときも、たしか義母が買い物に行きたいから連れていけって呼び出された日だったのですよね。夫が帰宅後に事情を説明して、『来なくていいって言われたから、今年のお盆は義実家には行かない。あなたががんばってね』と言ったら、ものすごく慌てた様子で『それは困る』って、夫が。困ると言われても、これ以上義母の勝手に付き合って帰省もできないなんて、おかしいでしょと突っぱねましたね」
マイさんは、自分と義母に挟まれる夫を一応は気遣って、いつもは義母の愚痴などはあまり言わなかったそうです。
そのせいで「うまくやれているのだろう」と夫が思い込んでいるのもなんとなくわかっており、「いい機会だから、あなたも親孝行してきたら」と前向きな言葉を送ったといいます。
ところが、話はこれで終わらず次の日には義父からマイさんのスマートフォンに着信があります。
義母がすまないことをした、いつもありがとうと最初に言ってくれたという義父は、「何とかお盆もこちらに来てくれないか」とマイさんに必死な口調でお願いしたそうです。
「義父は、夫に似て弱気というか、義母の言いなりになる姿ばかり見てきました。私がいなかったらわがままな義母の用事を全部自分が引き受けることになるし、それが負担なのだろうなと思いましたね」
義父から謝罪があったことで、自分のほうも「きつく言い過ぎました」と謝ったマイさんでしたが、お盆は夫をそちらに向かわせること、自分と子どもたちは遠慮することをはっきりと伝えます。
「義父にも、改めて実家に県外の親戚が帰ってくることなど説明しました。『いつもお義母さんには付き合っているし、お盆くらいゆっくりしたいです』と本音を言ったときでした」
うんうんと相づちを返しながら聞いていたという義父は、マイさんの言葉を聞いて「お盆こそ、まずはこちらを大事にしてほしいものだが」と渋い声で返したそうです。
「『いや、だから、そちらにも行く予定だったのですよ』と言いながら、この家はもうダメだなと落胆が激しかったですね。義父も結局は義母と同じ考えで、私が自分の実家に帰ることを優先するのが気に入らないのですよね。夫を置いていく、と言うのも『嫁の自分は来ないのに』みたいな返し方をされて、本当に私のことなど誰も考えていないのだなと思いました」
そのときは「離婚」の文字も一瞬頭をよぎったというマイさん。
義父との話し合いは平行線のまま終わり、その夜ふたたび夫に「義実家のことはあなたに任せたから」と伝え、マイさんは疲れきった頭を休めたそうです。
何でも従うのが「妻」ではない
その後、マイさんが驚いたのは夫の言葉でした。
「母と話した。何でもそっちを優先にはできないし、もう少し妻には感謝してほしいと言ってある。お盆は俺が行くから、君は実家に帰省してくれ」
ため息をつきながらそう口にする夫は、「おそらく義母や義父とやり合ったのだろうな」とマイさんが想像するほど、疲弊感が色濃く見えたそうです。
「たぶん、義母や義父は私を来させることばかり言ったと思います。でも、夫からすれば私に取り付く島もないのは態度でわかっているし、まさに板挟みですよね。それでも、親に折れて私にどうか行ってくれと頼むではなく、自分が動くことで収めようとしたことは、この人なりの努力かもしれないと思いました」
思い返せば、自分の家を放ってでも母親の用事ばかり優先してこなしてきたのがマイさんであり、それを正面から感謝しない両親の態度も、夫は受け入れがたかったのかもしれません。
「そのときは、夫に対してざまあみろと思う自分もいましたが、ひとまず義母たちと話してくれたことには感謝しました。結局お盆は夫を置いて私と子どもたちで帰省し、義実家には行かなかったです。夫は忙しそうに義実家とうちと往復していましたが、私に向かって文句など言うこともなく、ほっとしましたね」
普段私がどれほどの負担をこらえていたか夫も少しはわかったはず、と言うマイさん。
その後は、義母から無茶な要求をされることはなくなりました。
義実家との確執は消えないものの、時間が経てばどうしてもやり取りが復活する機会があり、いまは「義父も夫も動けなくてどうしようもないときは私に連絡が来る」距離感だそうです。
「妻だから嫁だから、何でも義実家を優先するべきだなんて、私は到底思えません。そもそも自分の親なら夫が率先して動くのが当たり前で、私は自分の親の用事に夫を付き合わせるなんて考えたこともありません。義母たちとは衝突したけれど、言いなりになるのが当たり前じゃないというのはこれからも通していくと思います」
さっぱりとした表情で、マイさんは顔を上げました。
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