結婚すれば、切っても切れない関係になるのが配偶者の実家。
お互いに独立した生活を送っているのなら、いわゆる「スープの冷めない距離」で気持ちのいいお付き合いをしたいですよね。
そうもいかないのは義実家が自分たちの都合を押し付けてくるときで、むげに断ることも難しければ関わることにストレスばかり増えていきます。
ある一家は義実家の無茶な要求にどう対応したのか、実際のケースをご紹介します。
「息子の受験」で変わったお付き合い
陽子さん(仮名/42歳)は、社内恋愛で結婚した夫とふたりの息子に囲まれ、慌ただしくも幸せな日々を送っていると言います。
結婚してから始まった義実家とのお付き合いは順調で、母の日やお盆などは陽子さんたちから出向いて楽しく過ごしていたそうです。
少し神経質なところはあるけれどこちらの生活に踏み込んでこない義母と、のんびりした性格で孫たちの成長をいつも喜んでくれる義父と、手土産のお菓子を食べながら話すのは陽子さんにとって心が落ち着く時間だったとのこと。
それが変わったのは、長男の中学受験が始まってから。
「長男はもともと勉強が好きな子で、4年生から私立中学への入学を目指して塾に通っていたのも、長男の意思です。模試の結果で心がくじけるときもあったけど、求める道を諦めないでほしいと長男には話していました」
陽子さんが「遺伝かもしれませんね」と苦笑しながら話すのは、夫も長男も義母に似た神経過敏さがあり、何かに集中するときは大きな音を極端に嫌うため、5年生になってからは夜の時間はなるべく静かに過ごすことを心がけていたそうです。
「長男の受験を応援したいから義実家に行く頻度が少なくなることは、夫が義母に伝えていました。義実家はクルマで30分くらいのところにあって、たまにですが義母がおすそ分けを持ってきてくれることがあり、そういうのも夜の時間は控えてほしいと」
義母がどんな返事をしたのかは聞いていませんでしたが、これまで大きなトラブルも起こっていなかったことから、陽子さんは特に義実家の様子は気にしていなかったそう。
ところが、この「長男の受験」が、義実家との仲がこじれる原因となりました。
義実家にも起こった変化
「長男が6年生の夏休み、義父が家の階段から落ちて足の骨を折ってしまい、入院することになり…。夫から連絡を受けたときは、私が退社後に病院に行って、手続きをしたり着替えを用意したり、義母を助けていました。父が入院するなんて初めてのことだと夫が話していて、義母は気が動転して準備が進まないし、家と義実家の往復で大変でした」
そう陽子さんは振り返りますが、義実家でのことなら息子の受験に影響はなく、「義母を支えるのは夫の役目」と思い任せていたそうです。
特に親思いではないけれどプレゼントなどの付き合いはきちんとしていたという夫は、陽子さんの気持ちを聞いて抵抗することなく義母からの連絡を代わってくれて、「家のことは私が、義実家のことは夫が」と役割を分担して乗り切る日々でした。
「夫には弟がいるのですが県外に就職して家庭を持っていて、義実家のことはほとんど夫が仕切っている状態でした。でも、家での介護とかではなく入院なので、そこまで大きな負担はなかったと思います」
夫が言うには「父親の世話より母親の不安な気持ちを聞かされるのが大変」だったそうで、夜になると「この家でひとりになったことがないから怖い」と電話をかけてくる母親の対応に時間を割いていました。
夫が初めて大怪我をして入院したことやその世話、一人ぼっちの家で過ごすことの心細さなど、陽子さんも理解できるので夫が庭に出て1時間も話すのをとがめることはしなかったと言います。
義母からの無茶な要求
息子の受験勉強は、模試の結果を見ながら弱点を克服していく大事な時期になっており、陽子さんも夫も「義実家の状態がどうであれ息子が最優先」と思っていたそうです。
それを夫は母親にも伝えており、「夜に訪ねてくるのは控えてほしい」とお願いしていました。
ある日、夕方に陽子さんが帰宅するとすぐに義母がやってきます。
息子は塾に行っておりもうすぐ夫も帰ってくる時間。どうしたのかと陽子さんが尋ねると、「あの子が夜は来るなってうるさいから。昼間はあなたたちは仕事だし、この時間しかないじゃないの」と義母は最初から不機嫌さを隠さずに答えたそうです。
「夫からは義母は大丈夫と聞いていましたが、体調はよさそうで病院の対応について愚痴を吐いており、寂しいのだなと思いました。それで、1日くらいはと帰宅した夫と次男と晩ごはんを一緒に食べたのですが…」
そのときは長男を塾に迎えに行くタイミングで義母も帰りますが、「最後まで『こっちも大変なのに』とぶつぶつ言うのが気になりましたね」と陽子さんはため息をつきました。
その2日後、ふたたび同じ時間に義母は現れ、またみんなで食事をしますが「あの子の受験が大事なのはわかるけど、私もひとりなんだから、もう少し助けてよ」と言い出したとき、陽子さんは「やはり」と思い、「何かあれば行きますから」と丁寧に答えました。
ところが、夫が「電話で話しているだろう」と陽子さんの後に続くと、義母は「電話だってそっちの時間に合わせるしかないじゃないの。夜が一番怖いのよ、ここにいさせてよ」と不機嫌そうに返したそうです。
「長男が勉強しているときは、音をたてないように静かに過ごしたいから。だからこっちに来ても退屈だし、リラックスできないと思うよ。テレビの音量も大きくできないし」
そう言う夫に向かって、「子どもにそこまで気を使うなんて、どうなのかしらね」と、義母は嫌味のように声色を歪めて言いました。
義母の「本音」
「次の日、私のスマホに義母から電話がかかってきました。出てみると、きょうもそっちに行きたいから送迎してと夫に頼んだら断られたと怒っていて、代わりに私に来てと言うんですね。長男は塾のない日で家にいるし、義母の様子からして騒ぐ可能性は高かったし、『また別の日はどうですか』と言いました」
陽子さんにとっていまは息子の受験が第一であり、それでも義母も大事な存在だからこそ、譲歩した提案のつもりでした。
「それを聞いた義母は、『受験勉強なんて、元の頭が悪かったら何の意味もないわよ』って…。『学校の授業を真面目に受けていないから塾に行く羽目になる』とまで言われて、さすがにカチンときて『授業の理解を助けるために塾に行くんです』と返したら、『頭が悪い証拠じゃないの』って。それより自分を迎えに来いと言うのが信じられなくて、『無理です』と言って電話を切りました」
「これが義母の本音なのかと思うと悔しいし、それまでもこっちは一生懸命義母を支えてきたのに」と、陽子さんは歯噛みするような苦しさを覚えたそうです。
すぐに夫に電話して事情を説明すると「俺から言う」とだけ返した夫は、その後で「母親にはっきり迷惑だと言った。いくら親でもそっちの都合に合わせてばかりはいられないし、息子の受験は人生に一度の大事なことなんだと言ったら黙ったよ」と報告をくれたそうです。
孫の受験より自分の都合を優先するのは、身勝手が過ぎるもの。
「もし今後も義母の都合を通そうとされることがあったとしても、私たちは私たちの人生を優先して考えます」と、陽子さんは強く心に決めていました。
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