「私が鍵を持つのは当たり前でしょう」
その日、義母は「家の合鍵をちょうだい」と言い出します。
夫が休日出勤で「子どもたちはうちで遊ばせれば」と義母に呼ばれた幸子さんは、みんなで義実家に来ていました。
狭いアパートと違って庭のある義実家を子どもたちは気に入っていて、ふたりが楽しそうに駆け回る様子を見ながら幸子さんは義母とお昼の用意をするためにキッチンに立っていました。
「これまでも『鍵がないからあなたたちが帰るのを待たないといけない』と義母は愚痴を吐いていて、いつかは言われるだろうなと思っていました」と、幸子さんは身構えます。
合鍵を渡すことについては、以前から夫と「何としても避ける」と決めていた幸子さんは、「私たちが家にいるときに来てくださればいいじゃないですか」とやんわりと断りました。
すると、義母の口から出たのは「これだけ世話をしているのだから、私が鍵を持つのは当たり前でしょう。息子はどう思うのか知りたいわ」という言葉。
「やっぱりここまで思っていたのだ」と内心で怯みながら、幸子さんは「康二さんにも聞いてみますね」と答えてその場はやり過ごし、その夜夫に報告しました。
夫は「俺が話す」と言い、家族に聞かれないよう寝室で義母に電話をかけていたそうです。
リビングに戻ってきた夫は難しい顔をしていて、「俺たちがいない間に部屋に入られるのは嫌だと言ったら『家族でしょう。こっちは家事を手伝ってあげると言っているのよ』って、何でうえから目線なんだって喧嘩になったよ」とため息をついたそうです。
それでも、こちらが渡さない限り合鍵は義母にはどうにもできないと思っていたふたりは、そのまま断り続けることを改めて決めました。
無神経な義父の言葉
息子からきっぱりと「合鍵は渡さない」と言われた義母は、それ以上何か言ってくることはなく終わったものだと幸子さんは思っていました。
ところが、その週の土曜日、夫のもとに義父から電話がかかってきます。
離れたところで着信に出た夫は、戻ってきたときはまたうんざりした顔をしていて、「母が、自分の好意を台なしにされたって親父に愚痴っているそうだ。『泣かれて困るから何とかしろ』って言われたよ。でも、そんなのこっちの問題じゃないよな」
「対応が面倒くさいからお前たちが折れろ」と義父は言ったそうで、幸子さんは「無関心もここまでくるとさすがに許せない」と怒りが湧いたそうです。
夫の言う通り、落ち込んでいるのを何とかするのは義母自身。幸子さんたちは「自分たちのペースを守りたいから」ときちんと説明したのであって、合鍵を渡さないことを好意の拒絶と受け取るのも義母の問題です。
夫は母親の過干渉には困っていることをはっきりと告げたそうで、「世話になっていることに感謝はするが、だからといってこちらの生活にむやみに踏み込むのはやめてほしい」と、父親の在り方も受け入れないことを伝えたといいます。
幸子さん自身は、「感謝の気持ちは普段から伝えているし、義母の買い物に付き合って代わりにお金を払うこともあります。『そこまでしてくれなくても』と何度断ってもそれを無視して関わってくるのは義母のほうで、好意を台なしにされたと言うのなら自分は私たちの気持ちをちゃんと考えているのか、身勝手だなと思いました」と、今後はもっと接触を減らす決意をしたそうです。