成人して大人になったのに、住み慣れた部屋から出ずいつまでも実家にしがみつくのが「子ども部屋おじさん(こどおじ)」「子ども部屋おばさん(こどおば)」と呼ばれる人たちです。
子ども部屋で好きなことをして暮らす日常は、当人たちにとって何がなんでも手放したくない在り方だと感じます。
一方で、子どもがそんな状態では将来の不安ばかり大きくなるのが家族で、精神的な隔たりが年々深まるという家庭も多いもの。
今回ご紹介する男性は、どんな思いで実家の子ども部屋に居座るのでしょうか?
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「自分は働くことに向いていない」
ユウキさん(仮名)は、44歳で実家に住み続けること、ひとり暮らしなど自立した生活を考えないことについて「自分は働くことに向いていないから」と以前に話していました。
専門学校を卒業して最初に勤めた会社で、上司のパワーハラスメントだけでなく「同僚から仕事の遅さを馬鹿にされる」「事務の女性に気持ち悪いと陰口をたたかれた」などアイデンティティを揺るがす出来事が続き、2年ほどで辞めてしまったそうです。
「周りはみんな普通に仕事ができていて、自分だけが無能なのだ」と思い込んでしまったユウキさんは、就職後に貯金が貯まったら出ていく予定だった実家の子ども部屋に閉じこもり、それからは派遣やアルバイトなど非正規の雇用で外の世界と接触するようになります。
労働は無理だと思うけれど、食事や掃除などを親に頼るからにはずっと無職では居心地が悪く、「半年以上仕事をしていなかったら両親から出ていけと言われる」そうです。
そんな状態で20年以上が過ぎ、自分がいわゆる「子ども部屋おじさん」になっている自覚はありますが、ユウキさんの意識は「自分は働くことに向いていない」から変わっていないようでした。
「親孝行」の意味は…
「20代とか30代のころは、体力があって肉体労働系のアルバイトをたくさんやれた」と話すユウキさんは、短期だけど収入は多いものを選んで働いていました。
給料は半分を生活費として母親に渡し、残りを自分のものとして使っており、それだけでも「家族として自分は立派にやっている」と思っていたそうです。
労働以外で外の社会とつながる機会はなく、子ども部屋で過ごすときは漫画やゲーム、インターネットが娯楽として欠かせない状態で、手にしたお金はそれらに消費されていきました。
10代のころから好きなアーティストがおり、会社勤めだったときは県外のライブなども足を向けていたユウキさんでしたが、「ほぼ無職」状態の生活になってからは自由に使えるお金が少ないことからその機会がありませんでした。
それでもライブに行きたい気持ちが強くなり、ある年は両親に「旅行したい」と声をかけ、ライブが開催される県外へ出かけることを提案します。
そのときの所持金は数万円で、移動費やホテル代などはほぼ親の支払いに頼る状態、それでもユウキさんは親孝行だと思っていたそうです。
「自分に金がないのは仕方ないし、家族で旅行することなんてそうないし、親にとってもいい思い出になったと思う」と、ユウキさんは両親の負担については口にしませんでした。
この旅行の一件は、後で父親から「次は自分の金で行け」と言われたそうで、家族旅行の名目で実はライブが目的だったことは看破されていたと感じます。
親からは何度も自立を促されていて、その度に「いまさらこんな人間をどこが雇うんだよ」と抵抗してきたユウキさんは、両親との仲が冷えていくのを止められませんでした。