配偶者ではない別の異性と恋愛関係を結ぶ、いわゆる「婚外恋愛」を認めているある夫婦の物語は、「夫婦の形」について多くの示唆を与えてくれます。
愛情でつながれているはずの関係に第三者が踏み込んでくることの意味、それでも「夫婦」の形を続ける意味、ふたりは最後にどんな選択をするのでしょうか。
きょうは、Prime Videoにて配信されたばかりのドラマ『1122』から見えてくる、「正しい夫婦の形」とレスの問題について考えました。
「レス」から婚外恋愛へ
現在Amazon Primeで配信されている『1122』は、渡辺ペコさん原作、今泉力哉監督のドラマ。
主人公の「一子」を高畑充希さん、その夫の「二也(おとや)」を岡田将生さんが演じています。
結婚7年目を迎えるふたりに子どもはおらず、それに関係なく仲睦まじい様子で結婚記念日の旅行を楽しみますが、その夜一子は二也を誘うものの断られるのが第1話。
「俺に好きな人がいるの、知ってるよね?」
ふたりの関係の異常さは、手を伸ばす妻にこんな言葉を吐ける二也の冷静さからまずわかります。
「知ってるけど、だから何?」と静かに返す一子にも、初見はかなり違和感を覚えました。
ふたりは2年前からレスの状態で、その原因は一子が二也を拒んだのがきっかけ。
それから二也は通っている生け花教室で知り合った既婚女性を好きになり、それを見抜いた一子は「うちで匂わせない」ことを条件に、夫の婚外恋愛を許します。
婚外恋愛とはいえ肉体関係のある立派な不倫関係を、二也は1年ほど続けています。
客観的に見れば歪でまともではない「夫婦の形」を、それでもふたりはお互いに向ける愛情を確認できるからこそ、表面上は幸せだと思っていました。
それでも、一子が友人に二也の婚外恋愛について愚痴るのは、夫婦ならありえないこの状況を作ったのは自分が夫の心を折ったという負い目を抱えているから。
ここで気になるのは、「夫が自分以外の女性に好意を向けていると知ったとき、なぜふたりの仲の修復について考えなかったのか」です。
本当に二也のことが好きなら、愛情があるのなら、自分以外の女性を好きになりホテルに行くようなその気持ちを、受け入れることができるのでしょうか。
「外で恋人を作ったらと言ったのは自分」と納得しようとしますが、このとき一子の心中には「夫婦の形を続けたい」思いがあります。
「うちで生活、外で恋愛」を受け入れたのは、二也と一緒にいたいから。
純粋ともいえるシンプルなこの願望が、最終話まで一子に「夫婦」の意味を問い続けます。
「婚外恋愛」に身を置く夫の気持ち
一方、夫の二也は西野七瀬さんが演じる専業主婦の「美月」と穏やかな時間を過ごします。
美月には発達に遅れのある息子がおり、その育児に悩んでいるうえに夫との仲は冷え切っており、味方のいない日常のなかで二也に精神的に依存しているのが伝わってきます。
二也にとって、「精神的に自立してみずからの意思で夫婦の形を守ろうとする」妻の一子と、「誰かに助けてほしい、守ってほしい」弱さを抱えながら自分との不倫を続けようとする美月は、対照的だからこそ好意が生まれるのかもしれないと思いました。
妻に伸ばした手を拒まれた二也にとって、その手を取ってくれる美月の存在は一見すると癒やしのように感じますが、実際は「男としてまだ誰かを幸せにできる自信」を与えてくれる依存先。
妻では叶わない自分の存在意義を美月で果たしているのであって、それもまた、一子との仲を改善するのではなく「別れないことが大前提のうえで外に逃げ場を作る」逃避なのだと、心の弱さが伝わるようでした。
本当に一子を愛しているのであれば、別の女性に好意を向けること自体しないのが当たり前であって、それを通してでも「一子と夫婦でいること」にこだわるのは大きな矛盾です。
別の女性と会った後に帰宅した家には妻がおり、その人と笑顔で食事をする自分への違和感は、二也の弱さを深めるだけ。
自分の婚外恋愛を受け入れた一子と違い、実際に行動に移している自分について、なかば諦めたように虚ろな表情をする瞬間が、ドラマではよく出てきます。
ふたりの周辺の「現実」
『1122』には、二也の不倫相手である美月以外にも、一子の大学時代からの男友達・五代(成田凌)や、一子の母・奈々(風吹ジュン)など、周辺の人間たちも重たい事情を抱えています。
五代は不倫がバレてから妻に監視される恐怖を感じており、一子から婚外恋愛の提案をされたときに「再構築中だから」と断ります。
母親でありながら一子と仲良くできない奈々は、夫がDV常習者だったため夫婦にも家族のあり方にもずっと苦しんでいました。
そして、美月の夫・史郎(高良健吾)は、妻が息子の育児で大変な日常から目を逸らし、その妻をしたに見ることで自分のプライドを守っています。
「互いの愛情を慈しむ夫婦」の姿はどこにもなく、それぞれが自分の置かれた現実を何とか泳いでいる状態で、これもまた、夫婦のリアルだと感じました。
外の世界では自分を取りつくろっていられるけれど、家のなかではそうはいかず、何かの屈折を抱えて配偶者と向き合わざるを得ない苦しみは、特に史郎の姿に現れます。
「あなたのそういう、常に人を小馬鹿にして平常心を保とうとするところ、大嫌い」
美月にこう言われた史郎は、したに見ていた妻が別の男性と不倫関係にあったことに怒りを覚えながらも傷ついており、そうさせたのは自分にも原因があることに、気がついています。
「変わらないといけない、あなたも、私も」
夫婦を続けるために史郎にそう告げる美月は、不倫相手の二也ではなく夫である史郎との関係の修復を、正面から考えることができるようになります。
それは、本当に向き合わないといけないのは誰でもなく自分自身の心なのだと、己の弱さを受け入れる強さを美月が手にした瞬間でした。
極端な行動からの「正しい選択」
ドラマのなかで、一子は悩んだ末に女性向けの夜の店を利用します。
セラピストの礼(吉野北人)に心も体も満たされた一子は、ここでやっと抱えていたモヤモヤの正体、「自分にも夫にも何かをごまかしている心」に気がつきます。
夫の婚外恋愛を礼に打ち明け、「嫌だったんじゃないの?旦那さんに恋人ができたの」と返されて泣き出す一子は、自分を求めていた夫の手を拒んだ罪悪感も、その夫が別の女性との恋愛を選んだことへの悲しみも、ずっと見ないふりをしていました。
そして、礼の言葉に、心の触れ合う機会が大切なのだと思い至ります。
一方、夫の二也も美月との関係をやめ、ふたたび一子と「正しい夫婦」でありたいと願い、ふたりは改めて互いに向ける愛情について確認します。
ところが、一子が女性向けの夜の店を利用したことを知り、「好きでもない男とできるんだ」と軽蔑と拒絶を止められない二也。
それに対して、「必死だったの。全然平気じゃなかったよ。リスクも責任を背負って、大真面目だよ。それで救われたの」と、素直に自分の気持ちを伝える一子の言葉は、レスや夫の婚外恋愛、風俗を利用する自分へのすべての葛藤が込められていました。
ふたりが求めていた「夫婦の形」のすれ違いは、この場面が頂点だったと感じます。
相手と向き合うことを避け続け、本心も本音も隠したままで形だけを維持するのは、一番身近な存在だからこそ難しいのですね。
二也が選んだ婚外恋愛も、それを許して夜の店を利用した一子も、極端な行動を招いてなお夫婦の形にしがみつく「無理」が、その後で別居を選ぶふたりに現れています。
これが、ふたりにとって「正しい選択」のひとつ目でした。
何を以て「夫婦」となるのか
最終的にふたりは離婚を選び、他人に戻ります。
「夫婦っていう関係が、もう重荷になった」
先に別れを決めたのは一子であり、それはレスを放置したこと、その結果夫も自分も一線を超えてしまったこと、そのうえで夫婦の形を続けるのは無理なのだと、正しく受け入れたからでした。
ふたりは、お互いに「一緒にいたい」と思ったからそれを目的に選択を続けていたはずで、「続けられない」にたどり着くまでには相応の努力もしています。
何を以て夫婦であり続けられるのか、基本となる愛情はあるけれど破綻するのは、やはりレスのように信頼が傾く状況をそのときに改善できなかったからだと、改めて思いました。
二也の手を拒んだ自分の心をあのとき一子は見つめるべきで、それを伝えていれば、二也が婚外恋愛に流れる弱さを止めることができたかもしれません。
拒まれる側にとって、その痛みを放置されることはつらく、だからといって婚外恋愛を望むのはまた道から外れる選択で、こうやって歪みはどんどん広がるのが現実です。
『1122』に登場するふたりにリアリティを感じるのは、「つまずきに向き合えない」互いの弱さは夫婦の誰もが抱えている問題であって、身近な存在だからこそ関係への馴れから素直さを失うのかもしれないと思いました。
そして、このふたりが最後にやっと同じ気持ちで決める「離婚したけれど、またこの家にふたりで住む」という道は、一子がずっと抱えていた「この人と一緒にいたい」を素直に叶える選択なのだと、しみじみと感じます。
紆余曲折を経てたどり着く「つながりの再生」は、今度こそ第三者のいない「ふたりだけ」の希望が見えて、この延長にあるのが「夫婦」ではないかと改めて考えました。
特に「夫婦」という関係において、レスのような根本の愛情と信頼を揺るがす事態は、いずれ離婚に発展する歪みをふたりの間に生みます。
レスの問題は「肌を重ねるのが愛情を確認する機会」とわかっているから痛みが強く、それを手にできないストレスは、単に欲の発散が不可能なだけではなく「この人と愛情で結ばれた関係なのだ」と実感できないつらさを避けられません。
向き合うのは「レスのうえで夫婦関係を続けるにはどうするか」ではなく、「レスを解消してふたたび笑顔で抱き合える時間を取り戻すにはどうするか」であって、ここで逃げずに踏ん張る強さが、その後のふたりを決めると言えます。
『1122』は、互いに抱える弱さを理解して、「この人と一緒にいたい」のシンプルな願望を叶えるための選択を、教えてくれます。
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