離れて見えた私たちの関係
結局、確実な物的証拠がなかった私はサキに問い詰めることはせず、少しずつ距離を置くことにしました。
幸か不幸か、私は担当ブランドがなくなるタイミングで退職し東京を離れ、スタイリストとして成功した彼女は忙しくなり、付き合う人間関係も変わりました。
サキは何度か私のところへ訪ねてこようとしてくれましたが、何かと理由をつけて断るうちに私たちの距離は自然と離れました。
その後、一度も嫌がらせメールは来ていません。
何も起こらずだんだんと私の中で過去にあった出来事になりつつありますが、一度だけあの恐怖をリアルに思い出したことがあります。
それはフリーメールアドレスを新しく作成していたときのこと。
迷惑メール防止のため、登録するためには携帯電話番号、生年月日など、さまざまな情報を入力しなければならず、予想以上に時間がかかってしまいました。そんなときふと、彼女は私に不吉なメールを送るたびに、この作業をしていたんだとおぞましく思ったのです。どんな気持ちで毎回情報を入力していたのだろう、メールを送信後、どんな顔で動揺した私からの連絡を待っていたのだろう…。
離れられて本当によかったと思います。
「私はみんながいうほど、キラキラしていない」
深夜にサキが電話で悩みを打ち明けるときによくいっていた言葉。
まわりが抱く彼女のイメージ(いまとなれば彼女自身が「こうありたいと思う自分の姿」だろうと思いますが)と、自分が違うことをいつも思い悩んでいました。それと同時に少しでも容姿や仕事など自分のことをいじられると激しく怒るアンバランスさを持ち合わせていました。
あの誰かに撮られた風の美しい自撮りも、賞賛されたメッセージも、恋愛話も、少しでもそのイメージに近づくため。そして、生活も心理状況もすべて把握できる私を、自分よりも不幸な人間だと思うことで心のバランスを保っていたのかもしれません。
いま、ときどき彼女のInstagramにアップされる「親友」たちを見て、同じ被害にあっていないことを祈るばかりです。
ないものねだりが嫉妬に変わることも
人が惹かれ合う法則のひとつに「相補性の法則」というものがあるそうです。
自分にはない長所や魅力を持っている人に惹かれてしまうという法則ですが、サキさんにとって、アリサさんはまさにそのような相手だったのかもしれません。
サキさんの口癖「アリサは大丈夫だよ。誰からも愛される太陽のようないい子だもん」は彼女の本心だったのではないでしょうか。
アリサさんの魅力がわかるからこそ、自分にはないものを欲し、手に入らないもどかしさが、いつのまにか嫉妬に変わり、彼女を陥れる気持ちに変わったのかもしれないと、話を聞きながら思いました。
人への嫉妬や妬み、葛藤は誰しもが抱えてしまうもの。それはときに人を飲み込んで大きな闇になることがあります。たとえ大好きな親友であったとしても。
このような経験はそうそうないものだと信じていますが、もし同じような経験をしている人がいたら、「まさか」を考えず、人間関係を冷静に見つめることをアドバイスしたいと思います。
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