朝食用のパンを焦がしてしまい、肩を落としガッカリしてしまう朝。そんな朝に「パンを焦がしてしまったけどそれもいいな」なんて思える相手と一緒に暮らせたら…。
今回は、おうちごはんをテーマに描いた心温まるコミック『パンが焦げてもふたりなら』(たな著/オレンジページ)を、ご紹介します。
お料理マンガやごはん系エッセイなどがお好きなかたには、特におすすめの一冊です。
『パンが焦げてもふたりなら』あらすじ
気遣い屋で口数がひかえめな「はーさん」と、楽天家で朗らかな「ひーさん」による、ふたり暮らしのおうちごはんを描いたフルカラーコミック。
日常のなかにある、たとえば朝食のパンも目玉焼きも焦がしてしまうなんて、ひとりだったらちょっと落ち込んでしまいそうな場面。
そんな場面に直面したときでも心をパッと明るくしてくれる、パートナーからの思いやりとおいしい食べ物が描かれています。
優しく寄り添い、日々の細やかで幸せな瞬間をぎゅっと詰め込んだ一冊です。
作者はレシピ付きフルカラーコミック『ごはんのおとも』の著者である、たなさん。
登場する素朴でおいしそうなご飯やデザート、ドリンクと、はーさんとひーさんの微笑ましくほっこりするやりとりが見どころです。
あたたかなパートナーシップ
パートナーが元気のないとき、ちょっとうまくいってないように見えるとき。はーさんとひーさんは、相手の気分をふわっと上げて元気にしようと画策します。
ふたりの思いやりの行き来を特によく描いているのが、「励まし」「諦め」というふたつのエピソード。
「励まし」ではひーさんが発売を心待ちにしていた本の予約が店舗都合でキャンセルに。店舗からの連絡に気づくのが遅れてしまい、ついに発売日に…。
自分の不手際が原因だと落ち込むひーさんに、はーさんは「気持ちが上がるように」と献立を考えます。
食卓に並ぶ豚汁、おにぎり、玉子焼き、ウインナーのセット(おかわり可)にひーさんの気分はぐんと上がります。
その後の「諦め」では、ひーさんが買えなかった前述の本をはーさんが書店で見つけ、彼に連絡をします。
連絡を受けたひーさんは、「自分が諦めてしまったものを諦めないでいてくれる人がいる」と嬉しくなり、お礼になるようなメニューを一品、夕飯に加えようと頬を緩ませるのでした。
このやり取りからはお互いがお互いを「元気づけたい」と思い合っていることが感じられ、とても些細な日常のひとコマですがその分愛しいひとコマだと感じます。
「パートナーは思いやりを持ち合うもの」と考えると当たり前かもしれませんが、ふたりの関係性はあたたかく、とても建設的です。
支え合う関係は困難に直面したときなど、シリアスな場面を想像してしまいがちですが、ひーさんとはーさんのように日常のなかでちょっとだけ支え合うのもまた、パートナーとしての支え合いの関係。
パートナーとはふたりのような支え合いの関係性でありたいものですね。
ごはんでご自愛
ひーさんとはーさんはお互いを励ましたり元気づける方法として、相手のためにおいしいものを用意したり、ワクワクするおいしい提案をします。
それはふたりが、料理やごはん、ちょっと素敵なドリンクが、疲れた日や落ち込んだとき、ゆっくり休みたいときのご自愛にぴったりなんだと知っているから。
実は筆者には、おうちごはんを全く大事にできなかった時期があります。だからこそ、余計にふたりの暮らしぶりに尊さや愛しさをおぼえるのかもしれません。
社会人1年目。勤め先は毎日20時にならないとその日何時に帰れるかわからない業務過多な企業で、毎日の帰宅時間は22〜24時過ぎ。
もちろん平日に自炊用の食材は買い置けず、平日の夕食はもっぱら外食やテイクアウトコンビニのお弁当でした。
そんな食生活を続けていたら、自分を大事にできていないと感じるようになり、入社から1年ほどで退職してしまいました。
理由は長時間労働と「家に帰って自炊をする、人間的な生活がしたい」と思ったから。
自分は思っていたよりも自炊することが好きで、もっと大切にしたいのだと気づいたきっかけです。
それから紆余曲折あり、いまの定時退社が基本の職場に勤めるようになってからは、手の込んだものではありませんが、平日も自炊を満足にできるようになりました。
いつもちょうどできあがるころ帰宅するパートナーを待ちながらする自炊の時間が好きで、いまの筆者にとってパートナーと囲む食卓がなによりの幸せです。
パートナーの仕事が忙しい時期に好きな献立を用意したり、一緒に夜のおやつタイムやドリンクタイムを過ごすことで、筆者の心も穏やかさを保っているのだと思います。
特においしそうだった作中のアレコレ
作中には、フルカラーでおいしそうな食べ物や飲み物が数多く登場。なかでも、特に作者の印象に残っているものをいくつか、登場するエピソードのタイトルと一緒にご紹介いたします。
まずは「すれ違う日」に登場するコロッケ。よくスーパーで紙袋に入れられてセット売りされている、どこにでもありそうなコロッケ。
繁忙期をむかえたふたりは、一緒に食卓を囲めない代わりにコロッケをそれぞれ違った食べ方をして楽しみます。
はーさんはトーストにレタスと一緒にのせてコロッケサンドにし、ひーさんはあつあつのおうどんにのせてトッピングとして。
ふたりはタイプが違っても、お互いを思いやることで寄り添い合っているのだということがわかるエピソードで、どちらもとてもおいしそうなアレンジ!
ふたりの食べ方の違いを感じられるエピソードはほかにも。
「あれ」というエピソードのなかでは、チキンラーメンをお互い違う作り方をして交換して食べています。
こだわりがあるものを「たまには別の作り方が食べたいから」と交換して仲良く食べる姿は微笑ましくて、袋麺の食べ方にこだわりのある人は思わずときめくはず。
お互いの違いをこんなふうに楽しみながら優しく受け止め合うはーさんとひーさん、本当に素敵です。
「今から」では、登場する3段重ねホットケーキが、「師匠」ではふたりで作る餃子がとてもおいしそう。
人にはただホットケーキを焼きたいだけのときと、ただ餃子を包みたいだけのときがあると思うのですがいかがでしょうか?
どちらもちょっと時間がかかるからこそ、楽しい作業だなと感じる好きな時間。その先にあるおいしさも待ち遠しい時間というか。ああ、ホットケーキも餃子も焼きたい。
「すいか」では、すいかを冷やすスペースを捻出するため、ふたりは冷蔵庫の整理をします。
ひーさんはふた匙残ったジャムを、「冷たい紅茶に入れよう!」(※ジャムをちびちびなめながら飲む)と提案するのですが、このアイスティーがジャムを入れるだけで特別な一杯に感じられてキュンとしました。暑い季節に試してみようと思います。
もちろん、これら以外にも紹介したいエピソードもごはんもたくさんあります。気になったかたはぜひコミックで続きをご覧いただきたいです。
ぜひ、優しくなれる一冊を
フルカラーを活かしたおいしそうなイラストの数々と、はーさんとひーさんが優しく積み上げるあたたかなパートナーシップがみどころの、『パンが焦げてもふたりなら』。
もしタイトルの「パンが焦げてもふたりなら」に言葉を続けるとしたら、「それでもきっと楽しく暮らせる」なのではないでしょうか。
ふたりの暮らしぶりをコミックを通して読んでいると、筆者もいつもより少しだけ優しくなれる気がした、そんな一冊です。
書籍情報
- パンが焦げてもふたりなら
- 著者:たな
- 出版社:オレンジページ
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- image by:Unsplash
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