2022年11月1日。東京都は、性的マイノリティ当事者のパートナーシップ関係における生活上の不便を軽減することと、多様な性に関する都民の理解を推進することを目的として「東京都パートナーシップ宣誓制度」を開始しました。
筆者はセクシュアルマイノリティ当事者で、身体の性別が同性のパートナーと東京都内に住まいをかまえ、ふうふ同然に暮らしています。
彼女とは東京都のパートナーシップ宣誓制度が開始した翌年の初秋、かねてからの記念日に合わせてパートナーシップを宣誓しました。
宣誓をしてからもうすぐ1年。今回はこの1年で感じていることについてお話しします。
ふたりの関係は変わった?
僕と彼女は幼馴染から始まった、何度か別れたり復縁したりをくり返しながらもなんだかんだ一緒の時間を過ごしてきた間柄です。
これからもふたりで暮らしていきたいと誓い、ウェディングフォトを撮影したのは2016年。
パートナーシップを宣誓する以前から長い間パートナーとして過ごしてきたので、正直言ってパートナーシップを宣誓してからもふたりの関係性はそれ以前とあまり変わっていないかもしれません。
その代わり、これまで公に認められなかった僕と彼女の関係性を証明するものができたことで、ほんの少し安心感を得た部分もありますが、相変わらず不安も残っています。
同性婚≠パートナーシップ制度
パートナーと暮らしていることをカムアウトすると、「同性婚をしているの?」と聞かれることがあります。
同性婚とパートナーシップ制度…混同してしまうかもしれませんが、全く似て非なるもの。
実際に筆者も「日本は同性婚ができるようになったんでしょ?」と言われたことは一度や二度ではありません。
しかし残念ながらいまの日本では、戸籍上の性別が異性同士のカップルのような“法律上の婚姻”という意味で同性婚をすることは不可。
筆者とパートナーがどんなに愛し合っていても、現行法で僕たちは“ふうふ”にはなれないのです。
パートナーシップ制度はあくまでも自治体単位の制度であって、法的な効力はなし。なのでパートナーシップ制度を受けているからといって、相続の問題や配偶者として同性カップルが法的に守られることはありません。
パートナーシップ制度の内容は、自治体の制度やサービスでこれまで法律婚の関係にあるふうふが受けることができるものの対象者に同性カップルを加えたというものが多く、受けられる制度やサービスの内容は自治体によって異なります。
たとえば公営住宅への入居や、病院などの医療施設で家族として扱うといったものなど。
もしものときの備えやセーフティーネットとして、もしくは婚姻関係になれない以上、法的な効力はなくとも何らかのかたちでパートナーとの関係性を証明したいという理由で利用しているカップルも多いのではないでしょうか。
「法律婚としての同性婚ができなくても、パートナーシップ制度があれば十分なのでは?」と思うかたもいらっしゃるかもしれません。
たしかに前述のようにパートナーシップ制度は当事者にとって「ないよりはあった方がよい制度」に違いありませんが、すべてがパートナーシップ制度で事足りているわけではありません。
まず第一に、パートナーシップ制度は日本全国どこでも受けられるものではないのです。
性のあり方に関わらず、誰もが結婚するかしないかを自由に選択できる社会の実現を目指し活動している「公益社団法人Marriage For All Japan – 結婚の自由をすべての人に」によると、2024年8月時点で日本では約460の自治体でパートナーシップ制度が施行され、日本全体の人口に対するカバー率は約85%。
日本で初めて渋谷区がパートナーシップ制度を施行した2015年から9年経って、やっと85%。
これが100%でない以上、国内に暮らすすべての同棲カップルがパートナーシップ制度を利用できるわけではありません。
仕事や家族の事情で引っ越しをしたくてもできない、もしくはパートナーシップ制度の利用を諦めなければならない場合が発生します。
法律婚なら婚姻届けが受理されてしまえば、日本国内どこで暮らしても同じ権利と効力を持つことができますが、パートナーシップ制度はそうではありません。
自治体単位の制度なので受理された自治体から転出してしまうと、効力もなくなってしまいます。
引っ越しの度に転出先の自治体へ改めて申請が必要で、転出先にパートナーシップ制度がなければ申請すらできません。
引っ越しに伴うパートナーシップ制度の再申請は、限られた自治体間同士で申請の手順や内容を簡素化する動きもあり、以前よりはスムーズになった部分もあります。
しかしまだまだ一部の自治体間に限られており、満足な状況とは言えません。
また、パートナーシップ制度で受けられる制度やサービスの内容は自治体単位で制度の内容を決めているので、「こちらの自治体では受けられるサービスが、こちらの自治体では受けられない」といったことが起きます。
兵庫県明石市ではパートナーシップ制度に留まらず、セクシュアルマイノリティのカップルの子どもも加えた「ファミリーシップ制度」を取り入れていますが、カップルのみを対象としている自治体も多々あり、東京都パートナーシップ宣誓制度のなかでも、区毎に受けられる内容には差があります。
パートナーシップ制度を導入しているからといって、すべての自治体で同じ制度やサービスを受けられるわけではないのです。
制度のアップデート
2023年の初秋、東京都パートナーシップ宣誓制度を申請した際の不満点のひとつに、「カードタイプの証明書がないこと」がありました。
大阪府や茨城県、岡山県岡山市などの自治体ではカードサイズで受理証明書が交付されていて、筆者も自分の身に何かあったときなどのため、財布などに入れて持ち運べるようなカードタイプのものがほしかったのです。
なので受理された当時、A4サイズの受理証明書だったことが不満でした。
しかし今年4月1日から、これまでのA4サイズの受理証明書に加え、カードサイズの受理証明書も利用ができるようになりました。
筆者もこの夏知ることとなり、カードタイプの証明書を申請。残念ながらプラスチック製のカードタイプではなく、自宅で印刷するためPDFでの交付(これはA4サイズも同様)でした。
これもないよりはあった方がよいと思いますが、ペラペラの紙のままでは大変持ち歩き難いので、自分でラミネートなどを施す必要があります。
東京都パートナーシップ宣誓制度は申請から受理まですべてオンラインで完結できるメリットがありますが、カードタイプもPDFの交付というのはとても残念です。
希望者だけでも郵送でプラスチック製のカードを交付してくれるとよいのですが…。
それでも、制度自体をよりよくアップデートしようとする姿勢には好感が持てます。
おそらく、多くの自治体でもパートナーシップ制度を導入する際は手探りの部分も多かったのではないでしょうか。
制度は、つくって終わりではないはず。東京都に限らず、パートナーシップ制度をよりよくしていくためにこれからも当事者の声に耳を傾けたり、ほかの自治体の制度のよいところを見て、アップデートしていってもらいたいです。
法律婚としての同性婚も望む
パートナーシップ制度を利用して1年。パートナーシップ制度がよりよいものになってほしいと思うと同時に、これまでと変わらず法律婚としての同性婚も望んでいます。
パートナーシップ制度自体が法的な効力を持ち、法律婚と同等の権利を持つことができるようになれば別ですが、そうでなければ拭えない不安があることには変わりないからです。
たとえば、外出先で目の前に車がふいに飛び出してきてヒヤッとしたとき。「いま自分が死んだら、彼女にちゃんと連絡はいくのかな」と、法律上で認められた配偶者なら届くような連絡が彼女へ来ないのではないかと不安になる。
旅先で事故や急病に見舞われたとして、もしその自治体にパートナーシップ制度もなく病院側に理解がなかったら、家族として扱ってもらえないのではないかと不安になる。
法律婚をしたふうふでも、そんなことを不安に思って暮らすことってあるのでしょうか。
同じようにパートナーを愛し、同じように協力して生活をし、きちんと納税もしている。法律婚ができるふうふと同じような安心を、自分たちも享受したい。
その望みが贅沢なことなのか、筆者にはわかりません。
だからからこそこれからも同性婚を望み、声をあげていきますので、どうか報道やSNSで同性婚やパートナーシップの話題が出たときはこの記事のことを思い出してもらえると嬉しいです。
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