誰かを好きになり、恋をすること
はな代が芳子との出会いによって再会したもののひとつは、恋をすることでした。
かつてうら若い乙女だった時分、はな代は「私は女性が好きかもしれない」と感じたことがありましたが、周りからは年頃の一過性の「気の迷い」と扱われました。
現代のように、同性を愛することへの理解がなかった時代。特に大人から「一時的なもの」と言われるとそういうものなのかもしれないと思ってしまい、いつしか恋心を感じたことさえも記憶の彼方へしまい込んで忘れてしまっていました。
そのころの淡いおもいは、芳子とのふれあいや作中に登場する小説「花物語」の作者で実在の少女小説家である、吉屋信子の作品との出会いによって彼女のなかで静かに花開いていきます。
年齢を感じさせない、憧れや恋で心が彩られていく様子の美しい描かれ方もこの作品の魅力です。
同性への恋を気の迷いだなんて言ってしまえる時代を経験したからこその考え方や、捉え方は恋心に向き合おうとするはな代の前に立ちはだかる場面も登場しますが、そのときのはな代の考え方はとても真っすぐで誰かに恋をすることについて改めて考えさせられます。
不貞でないのなら、何歳だって恋に落ちていいのだと、「恋に年齢なんて関係ない」と言葉にすることは簡単です。
しかしいざ、自分がはな代の年齢でひとり身になったときに誰かに恋をして一歩踏み出すことができるかと考えると、なかなか難しいのではないかと感じているのが正直なところ。
簡単にはできないことだからこそ、憧れの人をきっかけにひとりで学ぶために行動し、芳子の店へ少女のような面持ちで楽し気な様子で通い、憧れの芳子に恋をするはな代の姿には勇気をもらえるのだと思います。
描かれているのは女性から女性への恋心ですが、きっと異性を愛する人もその勇気をもらうことができると思います。もちろん、女性に想いを寄せている人も、寄せたことがある人も。