人を好きになる勇気
「彼と出会うまでは、自分と同じバツイチの男性を見てもどうしてもいい印象が持てなくて、この人も奥さんのことを憎んでいるのだろうかとか変なことを考える自分がイヤでした。
彼は、私のそういう気持ちも、調停の状態を聞いて『大変だったね』『本当につらかったね』と理解してくれて、距離を取ってくれていたと思います」
離婚はきれいに終わるケースなどほとんどなく、「誰もが相応の痛みを経験していまがあるんですよね」と裕美子さんは言いました。
男性との出会いで視野が狭かった自分に気がついたとき、裕美子さんは自分が向ける静かな恋愛感情も知ります。
LINEのIDを交換して毎日メッセージを送り、たまには電話でも話し、お互いの状況やボランティアの活動についてあれこれと会話する時間は、裕美子さんにとって一日で一番心が落ち着く機会だったそうです。
恋愛はもう無理だろうと思っていたけれど、彼のことを素直に好きだと思う自分がいて、それを否定することなく好意と信頼を育てていけたのは、離婚を選択した裕美子さん自身に「これでよかったのだ」と思えたからでした。
「彼と話していたら、元夫が自分の浮気を『これくらいのこと』と鼻で笑うのも、『離婚したければ財産分与を諦めろ』と調停委員に言い放ったのも、本当にあり得ないのだと客観的に思うことができました。あのとき元夫の言い分に負けず自分の主張を通せてよかった、子どもたちのためにもあんな男の元へ戻らなくてよかったと思ったら、涙が止まらなくて」
そんな裕美子さんを男性は正面から受け止め、「養育費を払っている、娘と面会交流を続けていると知ると離れていく女性が多かったけれど、あなたは『人として当たり前』と言ってくれた。面会交流のことを話しても、まず『気をつけて行ってきてね』と返してくれるのはあなたが初めてだ。あなたのおかげで僕は自分に自信が持てた」と、LINEで送ってくれたそうです。
生活に持ち込みたくないもの
裕美子さんには13歳と11歳のお子さんがおり、別れた元夫とは調停の際に面会交流を向こうが断ったため約束をしていない状態です。
それでも、子どもたちは元夫と電話で話したり時間が合えば食事に行ったりしており、「それは大丈夫なのですか?」と尋ねると、「子どもたちが自分の意思で決めていることなら、文句はありません」と裕美子さんは落ち着いた様子で答えました。
自分の離婚と、子どもと元夫の関係はまったく別のものであり、どうであれ父親に変わりないのなら会うことを止める筋はないと裕美子さんは考えています。
それについて彼のほうも「自分もそうすると思う」とうなずいてくれて、嘘をつかずきちんと報告することだけを、子どもたちとは約束しているそうです。
バツイチで子どもがいても、彼氏ができれば家に招いたり子どもたちに会わるという選択が出てきますが、裕美子さんは「私に彼氏がいるなんて子どもたちが知ったら、混乱すると思います。自分たちは父親と会っているのに、母親の私が別の男性を好きになったなんて事実は、思春期のあの子たちにとっていい姿ではないはずです。家庭は私と子どもが暮らす場所で、彼の存在は私だけの事情だと思っています」と、彼を紹介することすら考えていないと言いました。
彼との交際を生活に持ち込みたくないのは、恋愛は個人の問題であって、母親の立場を優先するのがいまの正解と思っているから。
「離婚は私と元夫の問題であり、子どもたちは巻き込まれた側」とずっと考えている裕美子さんは、新しい恋愛を楽しむ自分を見て子どもたちはどう思うか、自分との関係が悪化する可能性を忘れずにいました。
その気持ちについては、彼にもきちんと説明しているそうです。