「目標ありき」の進路指導
文理選択に直面してみて思いましたが、学校や受験の仕組み上仕方がないことかもしれませんが、いまの時点で「興味がある学部、行きたい学部を決めよう」ということ自体がなかなか難しいんじゃないかなと思います。
わたし自身はもともと英語が大好きで、数学が大の苦手。迷うこともなく文系に行きましたが、うちの息子のようにどっちつかずな子も多いと思います。
そういう子に「やりたい勉強を調べよう」という積極性を求めてもなかなか難しい。だからといって学校の先生も親身にカウンセリングをしてくれるわけでもない。結局こちらで考えて決めなくてはいけない。
さらに、文理選択といっても大学の試験方式が多様化してしまい、理系でも数学が不要な大学とか、文系でも数学が必要な大学も出てきて、どの大学のどの学部を受けるかによって変わってしまうのが実情。
いまや文系理系でわけるのはナンセンス。文理融合の学部も数多く登場するし、どの大学も試験内容が変わる可能性もあるので、選択自体がとても難しいです。
そう考えると「文理選択」ということ自体に無理があるのかなぁなんて思ったりもします。
変化についていけないなかで進路を選ぶのは難しい。特にまだ自分ごととして意識できない息子のような子にはシビアだなぁと思います。
さらに、学部を決めるにあたって指導されている内容にもツッコミを入れたくなります。
ある程度仕方がないことなのかもしれないのですが、学校の進路指導はまず「目標ありき」なのです。
いまや陳腐な言葉に聞こえる「なりたい自分」になるために、職業を知り、興味のある分野から行きたい大学や学部を絞り込んでいこうという手法。
未来を設定し、そこから遡って現在の行動を決めるという手法は自分でもやることがあり、目標への行動を具体化するのにはとても効果的だとは思いますが、ちょっと待った!その「目標設定」に問題があると思うのです。
高校生はまだまだ世の中を知りません。社会に出たこともない高校生を捕まえて「なりたい職業」を決めさせること自体にまず無理がある。
ぶっちゃけ、普通に大学に行ったとして、ほとんどの人が会社に就職していわゆる「会社員」になりますよね。配属された部署で専門性を高めたりしていきます。
だけど子どもたちに配られる「職業選択ブック」には「会社員」という項目がないのです。
いちおう会社員の職種として「企画」とか「事務」とか書いてあるけれど、就職時に希望部署に配属されるかどうかは微妙なところ。目指したところで叶うとは限りません。
さらに「職業」というくくりでは、どうしても紹介する職種が専門職ばかりになってしまい、「医師」「弁護士」など、志すのはいいけれどかなり勉強のハードルが高いものと、「歌手」「声優」など、こちらも目指すのはいいけれどそう簡単にそれで食えるようにはなりませんよ、という職種などを見かける。
それと同列に、努力すればなれそうな「教師」「公務員」とか、専門学校を出れば資格は取れる「調理師」「美容師」などが並んでいたり、稼げるかどうかは置いといて、民間資格で名乗るだけならすぐになれそうな「フラワーコーディネーター」「インテリアコーディネーター」なんてのも列挙されています。
この冊子を出しているのは、某大手予備校。大学受験の学部選びにはまず「なりたい職業」選びからというところなのは想像できるけれど、選択肢としてあまりに狭いんじゃないかなぁと思います。
好きなこと、やりたいこと、興味があることを深めていくことは素敵なことだけれど、いまの時点でなりたい職業を設定するのって結構ハイリスクではありませんか?
だって世の中の状況は日々変わっていて、なくなる職業、生まれる職業、たくさんあるし、仮置きにしても無理がある。
大学で学びたいことを学ぶほうがいいけれど、大学に自分の学びたいことがピンポイントであるとは限らないし、でも「大卒」という経歴を手にするために進学する人が多いわけで。
目的意識のない進学は薦めたくないという学校の気持ちはわかるけれど、結局「早稲田に行きたい!」と言って、大学で学ぶ学部どうこうよりも、自分の持ち点数で受験できる学部を全部受ける子だっているわけです。
っていうか「やりたいことで大学を選ぼう」だなんてきれいごとでしかなくて、結局進学させたい親だって学校だって、「できれば偏差値の高いところに行ってくれればいいなぁ」という下心があるわけだし、指導の仕方と本音が合っていないのが問題なのですかね。
とりあえずの仮置きとして、どんな職業に興味があるかを設定するのは問題ないと思うのですが、現実は大学の学部と職業がつながっていない事実も伝えたほうがいいと思うんですよね。
「医学部に行って医者になる」などはっきり大学の学部と職業がつながっているパターンって本当に少なくて、なりたい職業から逆算して大学での学びを決めるというのもちょっと危険。
だいたいは就職してから徐々にその後のキャリアを考えていくものだし、ひとまず大学で何を学ぶかだけを考えたらいいような気がするんですよね。
わたし自身も英語を学びたくて大学に進学したものの、就職で「英語ができる子を探している」と言われて入った会社では総務に配属。英語と無縁の環境でした。
会社に就職するときも、よほど専門性の高い人以外は会社に割り振られた配属先でまず仕事をスタートするのだと思います。
そこで会社や仕事に慣れながら、この先どうする?って、転職なり、勉強するなり、考えながら進んでいくのがよくあるパターンかと。
息子の場合は、わたしがこういう思想を持っているから影響されているのか「将来の夢?ない」と言い切ってしまうタイプ。
もちろんそういうカタログを見て「よし、獣医師になろう!」と目覚めて目標に向けて邁進する子もいるでしょうから、その存在は否定しません。
ただ、進路指導自体がマニュアル化してしまい、形式的なものを押し付けるだけでは実のある指導にならないと思うんですよね。
なりたい仕事を決めようと指導しながら、先生はどうだったのか聞くと「実は理系で文転してまして…」とか「なんとなく先生になろうかなぁ」程度で教師になっている人も多く。実感の伴わない指導では、子どもに響かないよなぁと思います。
最近は大学に進学しても退学してしまう子が多いんだとか。とりあえず「受かる大学」を受けた結果、入ったらおもしろくないから行かなくなって辞めるという状態を防ぐために目的意識を持たせたいという事情があるらしいのです。
わたし自身も英語を学びたいのにうっかり英文学科に入り、英語の辞書の歴史とか、中世の英文学を読み解くとか、まったく興味のない授業を受けながら「思っていたのと違った」という経験があるので気持ちはわかりますが、そんな理由でライトに辞めちゃうって、ちょっと待って!大学の学費はもちろん、大学に入るためにいくらかけたと思ってるのー!?
自分の経験と、最近の大学事情から、せっかくなら息子に充実した大学生活を送ってもらいたい。そして、入ったなら卒業してもらいたい。
とにかくお金がかかる進学。つまんないから辞める、みたいなことになってほしくないと願って、せっせとリサーチを続けるわたし。
大学側も学部無視で受かる大学を受けまくり、目的意識なく入学してくる学生を避けるために、「この大学に入りたいです!」と熱意を示すAO入試に舵を切っている学校も多くなっています。
ただこのAO入試も、内情を聞くと「何それ?」という世界なようで。これはまた次回にお話しできればと思います。
成績は地を這うような状態のまま、ハードな印象のある「理系」に進んだ息子。いったいどうなるのか…。のんきな息子をよそに、わたしだけ心配しています。
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