「どこまで受け入れるか」の葛藤
由紀さんは、正社員として働いているものの収入は飛び抜けて高いわけではなく、児童手当のほかに児童扶養手当もいくらか支給されています。
元夫から支払われる養育費は児童扶養手当の制度では収入のひとつとみなされ、そのぶん支給額が減りますが、それでも生きていくうえで必要なお金のため由紀さんは支給に感謝しています。
「元夫とは、月に一度だけ子どもと3人で食事をしています。面会交流のときに、公園で数時間一緒に遊ぶくらいならと付き合っていますが、ふたりきりで会うことは絶対にしないし、いまの部屋にもあげていません。きちんと線を引かないと、偽装離婚のように思われてしまいそうで」
由紀さんは、この線を引く意識が元夫のほうは薄く、自分の好きなようにこちらに接触してくることに戸惑いを感じるそうです。
「息子のことを大事にしてくれるのは本当にうれしいのですが、私を見ると『仕事、がんばってる?』『風邪をひきやすいんだから、気をつけてね』と言ってきたり、面会交流のときに私の好きなスイーツをお土産に持たせたり…私まで気にかけてくれなくても、と思います。でも、元夫はもともとそういう人で、私の反応に関係なく気遣ってくれるのをやめないんですよね」
由紀さんの口調が揺れるのは、「大事にされる自分」を見るから。
調停であれほど憎みあった仲なのに、過ぎてみれば夫の「変化」はやはりありがたく、子どもが次の面会交流を楽しみにしている様子などを見ると、素直に元夫への感謝の気持ちは湧いてきます。
それでも、距離を縮めて仲良くするのは「離婚した意味がない」とも思われて、自分への気遣いをうれしく思う反面、どこまで元夫を受け入れるか、由紀さんは葛藤し続けていました。
出せない結論
「先日、息子が『また3人で暮らしたい』って言い出したんです。この間の面会交流で公園で遊んだ後、お昼をみんなで食べたのがうれしかったようで。ギクッとしました」
息子がいつかそういうことを言い出すかもしれないことは、由紀さんも想像していました。
両親が離婚したことはわかっていても、父親も母親も穏やかで険悪な空気になることもなく、自然にいられる姿を見ればそう望むのも当然です。
一方で、「お父さんもそう言っているよ」という息子の言葉が、由紀さんには引っかかっていました。
「元夫がそういうことを子に言わせている可能性はあると思います。自分がいくら誘っても私はふたりきりで会うことはしないので、業を煮やしたというか、子どもを使えば先に進めると思っているのかもしれません」
3人で過ごすことに、由紀さんは「面会交流での短時間ならOK」と思っていて、元夫が望むような密な付き合いについては気が引ける状態。
「自分にも優しくしてくれる元夫に心は揺れるけど、このまま流されてしまうと、友達が言ったようにおかしな関係になるかもしれないし、再婚なんて求められても困ります。元夫のことは以前よりずっと受け止めやすくはなっていますが、最後はやっぱりノーになるなと…」と、葛藤しながらも線を引く意識を捨てられません。
元夫は、子どもがいればなおさら「赤の他人」とは言いづらく、離婚後に良好な関係が築けていれば復縁のような展開もあるかもしれませんが、それが自分にとって正解かどうか、いまは結論が出せないところ。
元夫に向けている気持ちに「子の父親としての信頼」はあるけれど、それ以上の愛情が育つかどうかは、しっかりと見極める姿勢が肝心です。
一度は破綻した関係だからこそ、その後どんなつながりを築いていくかは、慎重に進めるのが自分のためと言えます。
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