戸建てであれアパートやマンションであれ、お隣さんや近くに住む人たちとの関わりは切れず、些細なことがトラブルに発展する可能性は常にあるもの。
いいお付き合いをしていたいと思うけれど、何かあったときに出るのがその人の本性なら、一方的な展開を押し付けられるのも避けられません。
そんなときにひとりで抱え込むのは危険で、第三者の力を頼ることも考えたいですね。
ひとり暮らしのある女性はご近所トラブルをどう解決したか、実際のケースをご紹介します。
ある日突然やってきたのは…
ゆかりさん(仮名/30歳)が住んでいるアパートは3階建てで、ベランダは1階の駐車場に張り出す作り。
いわゆる青空駐車のため、「洗濯物などは飛んでいかないようにしっかり止めるようにしています」と話していました。
それまで駐車場でのトラブルはあまり聞いたことがなかったそうで、アパートの住人にも「特に問題のありそうな人はいない」というのがゆかりさんの実感です。
ある日、ゆかりさんが会社から帰宅して洗濯物を取り込んでいるとき、干していたTシャツが1枚ないことに気がづきました。
「ハンガーごと消えていたので、風で飛ばされたのかもと思いました。その日は強風で、大きなピンチで竿に止めていたのですが室内に干せばよかったと後悔しましたね」
その後悔がさらに大きくなったのが、夜のこと。インターホンが鳴り、モニターを見るとうえの階に住んでいる男性だったのでゆかりさんは対応のためドアを開けます。
「これ、お宅のじゃない?」
挨拶もなしに目の前にずいと紛失したTシャツを突きつけられたときから、嫌な予感がしたそう。
そうですけど…と答えながらゆかりさんが受け取ると、不機嫌そうな表情をしたその男性は、「うちのクルマ、お宅のベランダのしたなんだけどさ、ボンネットに落ちてきたみたいで。傷がついているから、一緒に見てくれない?」と有無を言わせない口調で迫ったそうです。
「このとき、大家さんに一緒に確認してもらえばよかったです」とゆかりさんはひとりで出ていったことを悔やんでいました。
男性の一方的な態度に
ゆかりさんは男性の後について駐車場に向かい、示されたクルマを見ると実際に小さなへこみと傷がボンネットに確認できたそうです。
「これ、お宅の洗濯物のせいだと思うんだよね」
男性は相変わらずぶっきらぼうな言い方でトントンとボンネットを指で叩きます。
「もう夜だったので、男性が懐中電灯で照らしながら傷を見せていたのですが、1ミリほどのへこみがありました。それでも、うちの洗濯物のせいなら本当に申し訳ないし、謝罪したのですが…」
「すみません」と慌てて頭を下げるゆかりさんに向かって、男性は「へこみの回復と塗装代に10万くらいかかるから」と当然のように弁償を求めました。
「10万と聞いて、さあっと背筋が寒くなりました。クルマは高級車ではないけれど3ナンバーの大きなもので、それくらいはするのかも…と一瞬考えましたね」
突然のトラブルにゆかりさんはすっかり動揺してしまい、男性に言われるがまま自分のスマートフォンの電話番号を教えます。
「また連絡する」と言い置いて男性が帰ってから、ゆかりさんは交際中の彼氏に電話をかけました。
「どうしよう」とうろたえるゆかりさんに、事情を聞いた彼氏は「そもそも、その傷は本当に君の洗濯物でついたものなの?」と尋ねます。
そこでハッとしたというゆかりさんは、男性が自分の洗濯物を手にしていたからそう思ったと答えると、「可能性はあるだろうけど、うーん、たしかめようがないよね。本当に弁償しないといけないのかなぁ」と彼氏は続けました。
飛ばされた自分の洗濯物がほかの住人のクルマに傷をつけたことの証明と、その弁償を自分が負わなければいけないのかどうか、その夜ゆかりさんはずっと考えていたそうです。
男性の「ゴリ押し」に対抗するには
「こっちが女性のひとり暮らしだと知っているうえで吹っかけてきたのかもしれない、というのが彼氏の考えでした。電話番号を教えてしまったので『次にその人からかかってきたらメモを取って』と言われて、次の日はずっと着信に怯えていましたね」
そう言ってゆかりさんはため息をつきました。
「すぐかけてくると思う」と彼氏が言った通り、次の日の夜に知らない番号から着信があり、出てみると昨日の男性でした。
「とりあえずすぐ修理に出したいのだけど、支払いはできる?」とやはり一方的に自分の都合だけ言ってくる男性に、ゆかりさんは「あの傷は本当に私の洗濯物のせいなのか、どうやって証明するのですか?」と尋ねます。
すると、男性は「そう決まっているだろう」と語気を強めて返してきたそうで、ゆかりさんはそのままメモ帳に書き記しました。
「お宅のあれがボンネットのうえにあって、そのしたに傷ができていたんだ。なんだ、自分のせいじゃないって逃げる気か」
男性の口調は荒々しく、ゆかりさんは恐怖に耐えながら彼氏から受けたアドバイスの通りに「大家さんに相談してみるので、支払いは待ってもらえますか」と答えます。
「そう言ったら、男の人は黙りました。いま思ったら、私がそう返してくるのは予想外だったのでしょうね」
数秒の沈黙の後、「大家は関係ないだろう」とふたたび言葉を荒げる男性に向かって、「駐車場のトラブルなら大家さんに話すのがルールなので」
とゆかりさんは答え、「また連絡します」と今度は自分からかけることを伝えて電話を切りました。
大家さんの力を借りる
本当にその傷がゆかりさんの洗濯物によるものなら、弁償の義務は当然に生まれます。
それを証明するのは男性側の役目であり、ボンネットのうえにTシャツが乗っていたことも、そのしたに傷があったことも、客観的な証拠がほしいというのがゆかりさん(とその彼氏)の気持ちでした。
ゆかりさんの彼氏が不審に思ったのは、何の証拠も出さず最初からこっちのせいだと決めつけて、見積もりも取らずに弁償代を迫る男性の態度で、「もし本当にそうだとしたら、俺なら相手を説得するために写真を撮るし、弁償代もきちんと見積もりを取ってから知らせる」と話す姿にゆかりさんは大きく納得したそうです。
「大家さんに相談すると伝える」という彼氏の案は、「君以外の人間が絡んでくるとわかっても自分が正しいなら困らないはずだし、そこで怒るなら男性のほうがおかしい」と見込んでのことでした。
次の日、ゆかりさんが大家さんを訪ねて事情を説明すると「◯◯さんは、あなたのTシャツがあっただけでクルマに傷がついたと決めつけたってこと?」「10万って金額はどこから出たの?」と彼氏と同じ反応だったそうで、「うちは何もできないけど、ちょっと話を聞いてみるね」と返されて会話は終わりました。
筋の通らない要求は第三者を頼るのもひとつの手段
本来、アパートの駐車場でのトラブルについて大家や管理会社が介入することは少なく、当事者同士での解決が基本です。
ゆかりさんの場合は、アパートが会社ではなく個人が管理する物件であり、大家さんの一家がその一室で暮らしていることもあって、長年の住人であるゆかりさんに親身になってくれたケースと言えます。
大家にトラブルを解決する義務がなければ「何もできないけど」と言い置くのは当然で、ゆかりさんのほうも「本当に自分のせいならきちんと弁償します」と伝えており、事実の確認についての相談をした形でした。
「結局、その後この男性から電話がかかってくることはなくなりました。大家さんが電話をくれて、『見積もりを取ってないのにどうして10万になったのかって聞いたら黙ってしまって』と男性の様子を伝えてくれました。傷についてもひたすら私のTシャツがあったからしか言わないらしく、そもそも本当に洗濯物のせいなのか、ですよね」
彼氏の言う通り、本当に自分が正しいなら第三者が介入してきても筋の通った説明ができるはずで、ずっと自分の状況のゴリ押しばかりしてきた男性にとって、大家からの連絡は都合の悪いものであったことは想像がつきます。
それでも、男性のクルマに自分のせいで傷がついた可能性は決してゼロではなく、今回はその証明がなかったものの、大家さんから「風が強い日はベランダにネットを張るのがいいかもね」と今後についてアドバイスを受けたそうです。
見方を変えれば、事実であれば男性は泣き寝入りの形になるわけで、「そのことを忘れてはいけないですよね」とゆかりさんは小さく言いました。
「しばらくは男性からの接触が怖くて、彼氏が1週間くらい泊まってくれました。クルマを1台分しか契約していないので彼氏の送り迎えが大変だったけど、この人がいなかったら言われるがまま10万を払ってしまったと思うし、感謝しきれません」
彼氏であれ大家さんであれ、トラブルが起こり「何だかおかしいな」と思ったときは、第三者に頼るのも自分のためです。
手に負えなくなってからでは遅いケースも多く、ご近所さんのように距離の近い人ほど早めに手を打つのが肝心。
事実をしっかりと確認しようとする姿勢が、間違ったやり方をお互いに通さないために重要と言えます。
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