こんにちは、椎名です。僕は身体の性が女性で心の性は定めていないセクシュアルマイノリティで、女性のパートナーと生活をともにしています。
勤め先の典型的なワンマン社長に、“いつものように”頭ごなしに怒鳴られていた33歳のある日。
「もしかして、ずっとこのままなのかな」という疑問が頭を過ぎったことが、僕の人生の大きなターニングポイントでした。
働き方を選ぶことは、生き方を選ぶこと。生き方を選ぶことは、なりたい自分を選ぶこと。
それなら、転職を通してなりたい自分になるために、働き方を選ぶってとても自然なことですよね。
「うちってブラック企業だよね」
当時僕は、自社製品のカタログ制作部門に所属していました。
長時間労働が当たり前の職場では、フロアには毎日のように誰かから誰かへの怒鳴り声が響いていて、そのなかには社のトップから自分たちへの怒声も混じっていました。
業務内容自体は愛せたから、なんとか社歴と命を繋いだ8年半。
ほかの社員と一緒になって、「うちってブラック企業だよね」と笑い話のように自虐を口にしたり耳にしているうちに何も感じなくなり、その内に心身の調子を崩してメンタルクリニックにも度々お世話になっていました。
過酷な状況を甘んじて受け止めていただけではなく、上司へ何度も何度も繰り返しSOSを出していましたが、いくら打っても響きません。
声を上げるのにも限界を感じていたある日、ふと「もしかして、40歳、50歳になってもこんな風に社長から理不尽に怒られるのかな」とこれまでになかった疑問が湧いてきました。
同時に「それってあんまりな人生じゃない?」と思い至り、会社側の改善を待たずに退職することを決めました。
転職は「働き方」と向き合うきっかけ
あと1日でも出社をしたら鬱などの症状で長期間働けなくなるかも…というところまで精神的に追い詰められていたこともあり、退職の理由は「職場から離れること」。けっして前向きな理由ではありません。
転職するにあたって、どう働きたいのかを考えて次の職場を探したい…行きついた答えは、「健やかに働きたい」でした。
漠然とした希望を具体的な条件にするために、まずは自分の希望条件の棚卸しをしました。
一番優先度が高い条件は、「住宅ローン返済に無理のない収入を得られること」。
前職が副業禁止だったので、今後は堂々とライター業を副業として続けていくために「副業を許可している企業であること」。
なにより副業ができるくらい時間的に余裕がある「残業が少ない職場であること」。
また、筆者は身体女性のセクシュアルマイノリティで、パートナーは身体の性別の同性にあたる女性です。これまで彼女のことは友人だと偽ってきたので、オープンにして働きたい。
筆者にとっての自分らしい姿はメンズ服を着ている姿なので、仕事中も自分らしい服装でいたいという希望から、「自分のセクシュアリティとパートナーのことを偽らずに働くこと」も条件に加えました。
そう考えてあくまで上記の条件を主軸にし、そのほかに条件を足したり引いたりしながら出会ったのが、いまの職場です。
転職活動の結果、新しいいまの勤め先は前職よりも自宅から近いため通勤時間が短くなり、残業もほとんどありません。
毎日定時で家に帰って家事をし、空いた時間でライターの副業も続けられています。収入も、前職よりも少しだけ増えました。
通勤時間が短くなったことで、朝の時間がとにかく楽!体力的なものはもちろんですが、朝の時間に余裕ができたことでこれまで夜せざるをえなかった家事、特に洗濯を朝にできるのがとても嬉しい。
集合住宅に住んでいると、どうしても夜に洗濯機を回す際時間に気を遣います。それが朝になり、それだけでも家事のストレスが軽減。
日によっては、朝副業をするためにパソコンに向かえるようになりました。夜も同様に、家事をする余裕も副業に割く時間もあります。
時間の余裕は、家事や副業をする余裕だけでなく、タイミングや配分など時間の使い方の選択肢を生み、自分で選択肢のなかから選べるという心の余裕にもなってくれています。
家事に関しては、以前から好きだった炊事をちゃんとできていることがとても嬉しいです。
忙しい時期はわが家の定番で簡単なメニューが続くこともあるし、仕事で疲れた日は「きょうは夕飯は各自で用意!」なんて日もなくはありませんが、基本は平日は毎日自炊。
自炊をしている時間は、考え事やときには友人たちとの通話を楽しみながら作ったりしていて、そのひとときは仕事とプライベートの切り替えを手伝ったり、リフレッシュの時間になっています。
InstagramなどのSNSで見つけたレシピはどんどん試していきたいし、彼女とのデートで見つけたお店の味を再現したりとこれからも楽しんでいきたいです。
服装や彼女とのことも含め、職場では自分らしく過ごすことも叶いました。
メンズ服にメンズカットの自分らしい服装で通勤していて、そのことで何かを言われたことはいまのところ一度もありません。彼女との結婚指輪も着けて働いています。
同僚には初めからカムアウトをしていたので、特段彼女とのことも隠していませんし、異性愛者の同僚が配偶者のことを話すのと同じように彼女とのこともおしゃべりの話題のひとつにしています。
「彼女とのことを自然と話す」そんな些細なことが筆者にとってはとても嬉しくて、隠さないで働くことがこんなにもストレスフリーなのかと驚きもしました。
ご機嫌に働く
彼女とのことを隠さずにいられること以外にも、ストレスフリーだと感じたポイントがあります。
それは職場で怒鳴り声を聴くことがないことと、リーダーや一緒に働く同僚がみな建設的な考えのもと仕事をしていて、協力的な姿勢であること。
前者に関しては新しい職場にやって来て3日目に「人の怒鳴り声がしない」と気づき、驚いたくらいです。怒鳴り声が聞こえないだけで、とても働きやすさを感じました。
そうではなかった前職を引き合いに出すのは言い訳になってしまうかもしれませんが、以前の職場では、どうしても機嫌よく働くことができませんでした。
長時間労働や業務過多、何度も上げたSOSの声を無碍にされ続けたことで、自分の機嫌を自分でとる努力をする心的余裕が全くと言っていいほどなかったのです。
だから運よく人間関係に恵まれたいまの環境では、自分も周囲を気遣える機嫌よく働く一員になりたいと考えるようになりました。
業務過多ではなくなって「機嫌よく働こう」と考える余裕を持てるようになったということもありますが、いまの職場で働くようになり、改めて機嫌よく働いている人とは一緒に働きやすいのだと気づかされ、自分も機嫌よく働く人になりたいと思うようになったのです。
周囲で機嫌よく働いているかたを参考にして心がけたのは、なるべく笑顔でいることと、ポジティブな言い回しをなるべく使うようにすること。
忙しくてイライラしてしまいそうになるときはコーヒーを淹れに行ったり、お手洗いに立って気分を入れ替えたりクールダウンするよう意識しています。
機嫌よくいるには、自分の機嫌が悪くなりそうな気配を察知することと、そうなったときの対処法を見つけることが必要です。
機嫌よくいるために意識することと工夫が筆者には必要ですが、続けてみて訓練して身につくものであるとも感じています。
訓練や工夫を要することは面倒かもしれませんが、それ以上に自分の機嫌がいいと自分の心も安定して暮らしやすくなるように感じます。
間違ったら、軌道修正しながら
なりたい自分や暮らし方、果ては生き方を選ぶことは、いい環境を整えれば自動的にそうなるものでもないのだなと、転職してからのおよそ2年間で感じました。
生まれた時間の余裕も、時間の使い方によってはかえって心身の疲労の原因になり兼ねないし、職場の人間関係が穏やかであっても自分の振る舞いによってはいくらでも台なしにすることができるのです。
ここからライフワークバランスがどうなっていくかは筆者次第。
実は転職してパートナーよりも在宅時間が長くなったことで、自分がもっと家事をするべきと考えてしまい頑張りすぎて負担になってしまったことがありました。
副業に関しても、今後副業も増やしていきたいのはやまやまですが、彼女との時間や趣味の時間も大事にしたい。
彼女と動画を見たりゲームをしたり、ゆっくりお茶を飲んでくつろぐ時間や、趣味のハンドメイドに勤しむ時間もとても大事なひととき。
せっかく本業とそれ以外の時間のバランスを整えることができたのだから、それを崩さないように心がけていきたいものです。
人生の多くの時間を働くことに費やす以上、冒頭に書いた通り働き方を選ぶことは生き方を選ぶことに繋がります。
環境を整えるのはあくまで第一歩、その先の二歩目三歩目は自分がなにを選んでいくか、どう振る舞っていくのかでいい方にも悪い方にも変えられます。
トライアンドエラーを繰り返すことで最適解やいい具合の着地点が見つかるはず…なんて言っていますが、筆者もまだまだトライアンドエラーの真っ最中。間違ったら軌道修正しながら、健やかに暮らしていきたいと思います。
もしいま転職で悩んでいらっしゃるのなら、記号としての希望条件だけでなく「これからどんな風に働いて暮らしていきたいか」をイメージして職場を探すといい出会いがあるかもしれません。
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