こんにちは、椎名です。僕の身体の性別は女性、しかし心の性は定めておらず仕事も休日もメンズファッションを愛しています。
大変私事ではありますが、今年の夏、僕は新しい職場に転職をしました。
今回はそんな僕が新しい職場で自分らしく働くために、転職活動で実践したことをお話しします。
同じようにLGBTQ+当事者で転職活動をしているかたや、当事者ではないけれど自分らしく働くためにこれから転職をしようと考えているかた、そんな求職者を受け止める立場にある求人を出している企業にお勤めのかたの参考になれば嬉しいです。
自分らしく働くための第一歩
“自分らしく働く”ために、僕は次の職場に対し給与や福利厚生以外の部分で求めたいことがいくつかありました。それは大きく分けて下記の2点です。
- メンズファッションで働きたい
- パートナーとの結婚指輪を着けて働きたい
どちらも僕が新しい職場で自分らしく働いていくために必要だと感じたことでした。そしてこのふたつを成立させるためには、転職活動の段階から性別を定めない僕自身を出していくことが必要だと考えました。
前職では10年に満たないまでも、長い期間勤務。前職の企業に入社した当時は、まだLGBTQ+という言葉が一般的ではない時代だったので、あまり好きになれないレディースファッションで全身を包み、完全に女性として入社しました。
そこからメンズファッションを愛するようになり、仕事着でもメンズファッションを身にまとって自分らしいスタイルで働けるようになるまで、かかった年月は5年以上。
次の職場ではそんな時間をかけず入社時から自分らしいスタイルで働きたい。だから転職活動の段階からある程度自分らしいスタイルでいても、それ込みで僕を選んでくれる企業に勤めようと考えたのです。
そのためにまず実践したことは、応募書類の履歴書の性別欄を削除することでした。これは僕の身体の性別が女性で、これまでも社会的な性別は女性として生きてきたけれど、実際の心の性は女性ではなく性別を定めないいわゆる「Xジェンダー」であったことがその理由です。
今回も結果として身体の性に合わせた女性としての雇用になるのだろうとわかってはいましたが、Xジェンダーに含まれる性別であると自覚を持って生活をしているいま、自分で作成する履歴書に「女性」と記入することは自分を偽るような感覚になってしまいます。
転職は主に転職サイトや転職エージェントを利用していたので、サイトなどの登録時やエントリーの段階で性別の回答を求められます。企業側は僕の身体の性別を知ろうと思えばいつでも知ることができるという状況です。
知ろうとすればわかる状況だったからこそ、僕はあえて提出用として別途用意した履歴書から、性別の欄を削除して使用しました。
たった1枚の履歴書の性別欄を取り除いたくらいでは、おそらくなんの変化もないでしょう。それでも僕には大切な1歩でした。
僕が使用した履歴書は手書きではなくExcelのテンプレートを使用しましたが、性別欄のない履歴書は手書き用も取り扱う店舗もあり、Webで配布されているExcel用テンプレートでも予め性別欄のないものがあるのでこれから転職されるかたはよかったら探してみてください。
そして次に、メンズファッションで働くためにしたこと。前職では、退職する前の3年間ほどメンズファッションとメンズカットで働いていました。
次の職場でもそれのスタイルを変えないために、なるべく私服OKの企業を選んで応募しました。転職活動中も髪型をほとんど変えることなく、パンツスーツに足元はパンプスではなくベーシックなオックスフォードシューズを履いて面接に挑んでいました。
パートナーとの結婚指輪を着けて働きたい。これには会社にパートナーの存在を隠さず働きたい、という気持ちも込めていました。
転職活動の材料として前職で制作していたものと一緒に、業務外で執筆してきたコラムや編集した動画などもポートフォリオとしてまとめ、必ず応募書類に添えて提出していました。
コラムをポートフォリオに加えたのは建前としてはライティングの経験のアピールでしたが、本音としては企業に対する間接的なカムアウトでした。
求職者に熱心な職場ほど、ポートフォリオまで目を通してくださると予想して、わざとLGBTQ+当事者だとわかりやすい題材を選んで加えたのです。そのうえで、面接では必ず彼女との結婚指輪を着けていきました。
企業の反応はさまざま
そうして挑んだ転職活動のなか、主に面接の場では面接官のかたがたからさまざまな反応をいただきました。
はじめに言っておくと、オンライン含め面接を受けた企業から差別を受けることはありませんでした。
面接官のかたのほとんどはあらかじめポートフォリオに掲載していたコラムなどの記事に目を通してくれていたので、ある程度LGBTQ+当事者であると認識した状態で顔を合わせてくれていたということも理由ではないかと思います。
どの企業も僕に対してLGBTQ+当事者であることを「差別しない」と名言したことは共通していたものの、その言葉に次いで口にされた言葉には企業ごとの差を感じました。
「すでに当事者が問題なく働いている」と、対応の経験がある企業は面接の段階で当事者の抱える不安に対し親身になってくれることが多く、「いまはまだ当事者を雇用した前例はないけれど、対応したいから何か困ったことがあれば教えてほしい」と受け入れる意思を表示する企業には誠実さを感じました。
しかしなかには、「そもそもで昔から日本は同性愛者に対して寛容なのだから誰も差別しない」と、差別しないことを明言していてもマイクロアグレッション(悪意なき差別)だと感じる発言をした企業や、僕の経歴も踏まえて「残念ながらあなたのように先進的に考えることができるかたには、当社は働きにくい職場だと思う」と遠回しに社内の“なにか”を伝えてくれようとする若い面接官のかたもいました。
ときには、「なぜLGBTQ+当事者だと公表して就職活動をしようと思ったのですが?」と率直な質問をいただいたこともあります。
たしかに自分らしさを押しころして、異性愛者の女性として就職活動をしたほうがずっと楽に仕事が見つかるのがいまの世の中だと思うので、疑問に思う気持ちも理解できます。
それに対しては、異性愛者として就職をすることは働きながらなされる日々の些細なやりとりのなかで、小さな嘘を吐き続けることになること、それによって自分らしく働くことができなくなることをお話ししました。面接官のかたもその言葉で納得してくださったようでした。
前述の履歴書の性別欄や髪型、服装、指輪についても特に触れられたことはありません。刈り上げ部分を少しだけ長くしたツーブロックで前髪をセンターパートにセットした髪型は、一般企業に転職しようとする女性の模範的な面接のスタイルではないと思います。
模範的ではなくとも清潔感が損なわれているわけでもないのに、たかだか面接時の髪型がメンズカットだとか靴がパンプスでないくらいでとやかく言うようや職場ならば、もしも縁があって働きはじめても自分には合わないだろうから採用されなくて結構だとも考えていました。