「家族だから持っていってもいい」?
裕子さんがずっと不満だったのは、義母が自分の気持ちをいっさい確認しないことでした。
「自分はいいことをしているとばかりに『洗濯物、畳んでおいたわよ』とか『お肉を買ってきたわよ』とか報告してくるんですよね。たしかにありがたいとは思うけど、『やってもよかった?』とか聞いてこないし、冷蔵庫のなかのものを勝手に捨てても何も言わないし、正直に言えば迷惑と感じることも多くて。私は常に感謝する側で気持ちは何ひとつ聞いてもらえないのかと、そこが一番のストレスでした」
そんな状態でお気に入りのお鍋をまた黙って持ち出されたことで、裕子さんの怒りは頂点に達します。
「いまから使おうとしたらなくなっていたのでびっくりしました。さすがに困りますね」と言うと、スマートフォン越しに義母から返ってきたのは、「家族なんだから持っていってもいいでしょ」という身勝手な言葉。
「まずは謝罪するべきでは」と裕子さんは思いますが、こちらが困ると伝えても反省しようとしない義母に何を言っても無駄だと考え、「家族であっても無断で持ち出すのは泥棒と同じですよ。いまから取りに行くので返してください」ときっぱりと言い、通話を終えるとそのままクルマに乗り込んで義実家に向かったそうです。
「腹が立って仕方なくて、義実家との関係などもうどうなってもいいやと初めて思いました。いままでずっと私が我慢していたから夫も義母も調子に乗っていたわけで、これ以上ないがしろにされるのは耐えられないと、怒りで頭がいっぱいでしたね」
そのお鍋は結婚祝いとして友人たちが贈ってくれた大切なもので、それを断りもなく持ち去られたことが、裕子さんの忍耐の尾をついに切りました。
どこまでもわかりあえない義実家
義実家に到着すると、玄関では不機嫌さ全開のしかめっ面をした義母が立っていたそうです。
「家族に向かって泥棒なんて」とブツブツ言うのを無視して置かれていたお鍋を取り、「これからは家に来るときは電話をください」と言い置いて裕子さんはすぐクルマに戻り帰宅します。
このことは夫にも話し、そのお鍋を裕子さんが大事にしていることを知っていた夫は、さすがに母親のまずさに気がついたのか、「俺からも言っておく」と初めて約束してくれたと言います。
ところが、次の日になって夫から報告があったのは「昨日のこと、俺もやめてほしいって言ったんだけど、『お前は嫁の尻に敷かれているのか』と言われた」と、どこまでも自分たちの非を認めようとしない義実家の様子でした。
「これからも無断で家に入るようなら鍵を変える」と裕子さんは夫に言い、いままで自分がずっと耐えてきたこと、義実家の人間が許可なく家に入るのは非常識であることを、改めて夫に伝えたそうです。
「夫は、黙って聞いていましたね。冷蔵庫に入れてあった自分の好物を義母が勝手に捨てたときのことを『あなたは何とも思わなかったの?』と聞いたら、『イヤだったけど…』と小さな声で返すのでイライラしました」と、何もしてこなかった自分を振り返っているようだったと言います。
このことで「義実家とはわかりあえないのだな」と実感したという裕子さんは、今後のお付き合いについては「鍵を返してくれるまで行かない」と夫に言い渡しました。