「若者の未来のために!あなたの一票が必要なのです!」
若々しく潤いのある背中にオイルを塗っていると外からそんな声がした。
「すみません、防音シート貼っているんですけど音が漏れてしまって…」
申し訳なく思いそう伝えると、その女性は「いえいえ、朝日さんのせいじゃないですから。本当、街頭演説ってうるさいですよね」と気遣うように声をかけてくれた。
私が働いているリラクゼーションサロンは人通りの多い駅前に位置しており、古い建物であるため選挙が行われるたびに街頭演説の声が店内まで響く。
眠ってしまうお客様のときは、私と街頭演説との戦いになり、どうしても耳に入ってしまう言葉に心の中で突っ込む2時間を過ごす。
うちのサロンだけでなく、コロナ禍で在宅ワークが増えているというのに、何十年も変わらない街頭演説の音量に飽き飽きしている人は多いはずだ。
来たる2021年10月31日(日)、第49回衆議院議員総選挙が行われる。コロナ禍で黙食やフェスの歓声制限など声を出さないことを強いられているなか、国会では大きな叫び声の万歳三唱と共に衆議院が解散され、各地で力強すぎる街頭演説が始まった。
「若者の未来のための選挙」と声高らかに叫ぶその議員候補は、「ハロウィンの日に選挙をするなんて若者の投票率を下げる行為だ」と続けた。若者全員がハロウィンの仮装をして騒ぎ通すものだと一括りにしている人が、若者の未来のために選挙活動をしているらしい。
若者の政治への無関心が叫ばれるなかでどうにかして政治に興味を持たせようと、今回の衆議院選挙では著名人の「#投票に行こう」などの言葉がSNSに流れている。遂に、若者の政治参加への対策が本格的に始まった。
そこで今回はなぜ日本は若者がここまで政治に参加しないのか、そしてどうすれば若者が政治に参加するようになるのかを、Z世代である筆者が考えてみた。
情報は沢山あるのに。若者が投票しない理由
総務省によると、平成29年10月に行われた第48回衆議院選挙では、10代が40.49%、20代が33.85%、30代が44.75%の投票率となっており、若者の投票率の低さが問題視されている。
ここには、住民票の移動がなされていないことなども理由として挙げられるが、何よりも政治に対する当事者意識の低さが根本的な原因と考えられる。
けれどSNSを見てみると、給与所得が上がらずに物価は上昇していることや、世界から見てもジェンダーギャップが大きいことなどに対して嘆く若者が増えているようにも思える。
では、日本の政治に対する疑問や不満はあるのに投票率が上がらないのはなぜなのだろうか。
大きな柱として考えられるのは、投票しても世の中は変わらないという無力感だ。
若者たちはインターネットによって、政治的な記事や著名人の政治関連の投稿のみならず、フォローしている人々の鬱々とした日々の不満や喪失感、そして意図せず流れてくる政治的問題などの多くの情報に過剰に触れてしまう生活を送っている。
それでも目に見えた改善をされない日本で生きていかなければならないという現状に無力感を覚えているのだ。
情報量や問題意識という点で言えば、投票率が高いとされている50代以降の世代よりも、インターネットで多くの情報に過剰に触れている人が多いだろうし、広い分野に問題意識を持っているはずだ。
また、1996年以降に生まれたZ世代と呼ばれる18歳から25歳の選挙権を持つ若者はインターネットなどの情報過多な時代に生まれたため、多くの情報から必要なものを取捨選択し、調べるということに長けている世代だ。
それにも関わらず投票率が上がらないのは、自分たちがどれだけ声を上げても国会にいる人たちは親世代以上の年齢で、その国会議員の若者向けの政策やその内容は若い世代からすると的外れなことが多く、私たち世代のことを本当に知ろうとし、若者たちがいまの国会議員たちと同じ年代になったときの未来を考えているとは思えないからだ。
私が仕事中に街頭演説で若者の未来のための一票を叫んでいた議員候補の話も的外れに思う内容が多く、深く若者世代を知ることなく政治参加をうながし、取ってつけたように私たちのためと言われている気がする。政治参加をすることで自分たちに利益が生まれるというよりも、自分の一票を利用されるという感覚を持ってしまう。
問題点はわかっているけれど、それを変えられるとは思えない。その心は、自分たちが嘆き苦しむこと、広く情報として与えられているものだけでなく、あしたの食費や子どもができたときのために必要なお金など、SNSのタイムラインに流れる鬱々とした状況を投票によって変えられるとは思えないからだ。
この無力感の背景は、出馬する議員に対する不信感だけでなく、世代的な政治に対する価値観も影響しているのではないだろうか。
現在の70代以降は学生運動を経験し、自分たちが世間に影響を与えることができるという意識が少なからずあるだろうし、戦後の復興を経て、国の経済や政治は国民が支え変えることができると感じられた時代に生きていた。
では、若者と呼ばれる20代や30代はどうであろうか。景気が変わらず、過度な情報が目に入り、挑戦することよりも調べることが得意な20代と、バブル経済崩壊後の就職氷河期を経た景気低迷期に成人し、ある程度できあがった社会に放り出された30代。
このことからわかる通り、「自分たちが国に影響を与えられる」という価値観は、生まれた時代も影響しているのではないだろうか。この価値観は自分の一票に対する責任感や影響力の有無をも変えるものであり、政治への関わり方を大きく左右すると考えられる。