配偶者の片方が離婚に反対していたり、離婚には両者が同意していても条件面で折り合いがつかなかったり…協議が難しいときに利用できるのが裁判所の「離婚調停」です。
離婚調停は、調停委員が夫と妻のそれぞれから話を聞き、妥協できる点を見つけて歩み寄りを提案するのが一般的な流れ。ですが、ふたりで話し合ったときには出てこなかったとんでもない“要求”を突きつける人もいます。
調停委員も言葉を失うような非常識な言い分とは、どんなものだったのでしょうか。数々の離婚裁判を傍聴し、調停についても数多のヒアリングを行なってきた筆者が筆者が見たリアルについてご紹介します。
- ※本記事は実際の調停内容をもとに、本人特定に繋がらないよう一部フィクションが含まれます。
モラルハラスメントに苦しむ妻の決断
Bさんは夫のモラルハラスメント(モラハラ)に苦しんでいました。
Bさんの夫はパート勤めのBさんに家事や育児のほとんどを任せ、自分がするのは朝のゴミ出し程度。生まれたばかりの子どもの世話もBさんからお願いされない限りは手を出さず、食卓に好物が並んでいないときは文句を言われていました。
Bさんは、「いないほうがマシだった」と振り返ります。
夫の年収は300万円程度で生活は大変なことが多いけれど、Bさんが必死な思いでパートの仕事をこなしていることも、「女なのだから当たり前だろう」と平然と言い切ったそうです。
一人娘を可愛がりはするけれど、面倒なことは全部Bさんに押し付けて、自分は「いいとこ取り」で済ませようとする夫がBさんは許せませんでした。
「離婚は考えるけど私の収入では子どもを養えない」と耐えていたBさんでしたが、転機が訪れます。仕事ぶりが会社に評価され、正社員として登用されることが決まったのです。
収入は上がり、夫と同じ正社員の立場となったことで「少しは考えを改めてくれるだろう」と思ったBさんでしたが、この話を報告したときに夫から返ってきたのは、「いままで通りに家事も育児もやれるなら就職してもいい」といううえから目線の言葉でした。
「正社員なんて、税金が余計に取られるじゃないか」「残業なんかするなよ、俺は娘の迎えなんか行かないからな」と“忌々しそうに”続ける夫を見て、Bさんははっきりと「こんな人間ともう暮らせない」と離婚を決意します。
正社員になることで娘との生活も見通しが立ち、それから半年かけて離婚に向けて準備をし、実家の両親が自分と娘を受け入れてくれることを確認したのち、記入済みの離婚届を夫の前に差し出したのが一年前。
ひきつった顔で離婚届をにらみつける夫を前に、「あなたのモラハラはもうたくさん。あの子を連れて出ていくので、それ、出しておいてね」ときっぱりと告げました。
夫は真っ先に「離婚なんて許さない」と言い、それを見越していたBさんは「離婚調停を申し立てるから、そのつもりで」とだけ答えて娘とともに引っ越しを敢行、新しい環境で生活をはじめます。すぐに裁判所に向かい離婚調停を申し立て、第一回目の期日が決定しました。
離婚に同意した夫が要求したこと
Bさんは、最初「離婚そのものを夫は争うだろうな」と考えていました。
夫が会社の同僚や上司に「使えない嫁」「仕事をがんばる俺を支えるのは当たり前」と話しているのを知っていたので、その“不出来な嫁”から三行半を突きつけられた事実など、とうてい受け入れられるはずはないと思っていたからです。
ところが、一回目の調停で夫は離婚には同意することを調停委員に話します。
財産分与はあらかじめBさんが作成していた表の内容を夫に確認する形で話が進み、貯金は少なくクルマのローン以外お互いに借金もないことから、大きく揉めることはありませんでした。
予想に反して離婚がスムーズに叶いそうな状況を知りBさんは喜びますが、つまずいたのは同時に申し立てていた婚姻費用分担請求と離婚後の養育費。
婚姻費用とは、別居中であっても互いの生活を支える義務が夫婦にはあることから、収入の多いほうがもう一方の配偶者の生活費を分担すると法律で決まっているものです。
裁判所が作成した算定表に基づき金額が決まるのがほとんどで、未成年の子を引き取って生活しているBさんは当然そのぶん生活費がかかり、夫が婚姻費用を払う義務者となります。
Bさんがあらかじめ計算していた額は調停委員も頷いていましたが、夫は毎月払っているクルマのローンの金額が高いことを理由に減額を求め、養育費も同じく算定表よりずっと下を要求しました。
正社員にはなったものの、Bさんの年収はまだ250万円程度。来年には娘が小学校に進学するBさんには、婚姻費用も養育費も大切な生活費であり、夫の要求は飲みづらいものでした。