君の人生と僕の人生を交わせてくれないか、とは
ミズ:と、思いますよね!?隣の席のおばさんもこちらに振り返るぐらいの決めゼリフだったんですよ!でも、プロポーズじゃ、ないんですよ…。
景気付けるつもりなのか、一人でグイグイとワインを飲むユウスケ。ハラハラしながらこちらを伺っている隣席のおばさん。最近の若手小説家の話を独り言のように続けるおじいさん。なんともいえない空間で戸惑っていると、顔を真っ赤にしながらユウスケが続けた。
「僕はね、先輩に出会って人生が変わったんだ。だから、あまり人生が上手くいってないのんちゃんにも、これをやってほしい。僕がのんちゃんの人生を変えてあげる。ねぇ、○○○○○(有名マルチ商法)って知ってる?」
マジかよ。このとき、隣席のおばさんと私は感情を共有していたと思う。元カレという幼馴染に、クリスマスの深夜に呼び出され、ドキドキして向かったらただの勧誘だったのだ。無駄にときめいて心臓に負担をかけてしまった。
ミズ:ユウスケとはそれなりに長い付き合いがあって、進路や恋人の相談をお互いしていて…なんだか急にその思い出や関係を断ち切られた感じがして、切なくなりましたね。
編S:切ないですが、それがお互いにとって最良で、ミズサワさんにとっても何よりいいことだと、ユウスケさんは信じていたのかもしれませんね。
ミズ:確かに、その可能性もありますね。でもやっぱり、切ないです。いまでこそテッパンの笑い話として使いまくってますけど。
目の前で真剣な顔でお互いの関係の深さをとうとうと話し、そんな心から信頼していてお互いが助け合える存在だからこそ、このサービスを体験してみてくれと説明しているユウスケ。そんなユウスケの話を手で遮り、低い声で告げた。
「いや、もうやめよう。わざわざ時間を割いてくれたのはありがたいから、家まで送る。それでもう、バイバイしよう」
隣席のおばさんがこちらをチラリと見て、私と目があうとなんとも言えない表情で首を傾げた。おばさんが、この場で唯一の私の理解者なのではないか。ユウスケは私がそんなに強く断ってくると思っていなかったようで、びっくりした顔で固まってしまっている。5分ぐらいたっただろうか、無言の時間が流れ、ようやくユウスケが口を開く。
「池尻大橋のシェアハウスに…○○○○○グループの人たちと住んでる…」
おっ、素直だね!と思いながら、俯いて何も話さなくなってしまったユウスケを連れてパーキングまで移動し、車を出した。
ミズ:正直、会社の先輩からその手の勧誘の話をされた〜なんてことを聞いていたので、いざ自分に降りかかると「ちょっと大人になったな」と感じましたね…。
編S:そういうの、基本的には社会に出て稼いでお金を持っているからこその勧誘だしね…。