マズローが定義した「自己実現」
「この言葉(筆者注:自己実現)は、人の自己充足への願望、すなわちその人が潜在的にもっているものを実現しようとする傾向をさしている。この傾向は、よりいっそう自分自身であろうとし、自分がなりうるすべてのものになろうとする願望といえるであろう」(『人間性の心理学』P72)
自己実現は「Self-actualization」の翻訳です。また自己実現的人間を「Self-actualizing People」とマズローは記しました。
自己実現に対するマズローの定義のポイントは「その人が潜在的にもっているものを実現しようとする傾向」にあります。
人とは可能性の塊です。しかし未だ達成されていない可能性は潜在的なものとして、その人の中に留まります。
この「潜在的な可能性を十二分に開発すること」、これがマズローの言う自己実現にほかなりません。
なりたい自分と潜在的な可能性
では、自己実現と「なりたい自分になること」の関係について考えてみましょう。
ある人は仕事もせずに怠惰な暮らしをすることが、「なりたい自分になること」だと考えているとします。「自己実現=なりたい自分になること」と定義すると、この人物も自己実現していることになります。
でも、いくらひいき目に見ても、この人物が自己実現をしているとは思えません。このことは、自己実現に関するマズローの定義を念頭に置けば明らかになります。
先の人物は、その人がもつ潜在的可能性の実現に努めているでしょうか。
まったく努めていません。
したがって、マズローの定義に従うならば、先の人物は自己実現とはほど遠い状態にあると言わざるを得ません。
このように「なりたい自分になること」が、必ずしも自己実現でないことは、いまの例からも明らかです。ただし、「必ずしも」と限定したのには理由があります。
というのも、自分の潜在的可能性を実現することと、「なりたい自分になること」が一致する場合もあるからです。この場合に限って「自己実現=なりたい自分になること」が成立します。
実存主義哲学では、人間がもつ可能性を信じ、自らの選択で生を歩み、その選択に対して責任をもつことを重視します。
この点を念頭に置くと、潜在的可能性の開発を自己実現と考えたマズローの心理学は、実存主義的であるとも言えるわけです。
自己実現とは
自らがもつ潜在的な可能性を十二分に開発し達成すること。
- image by:Unsplash
- ※掲載時の情報です。内容は変更になる可能性があります。