巷に広がる「自己実現」の誤った解釈
「自己実現」という言葉は、いまや高校生、ひょっとすると中学生でも用いる言葉かもしれません。
しかし私としては、自己実現という言葉が誤解されて使われているように思え、ちょっと心配になったりします。
その誤解の典型が「自己実現とはなりたい自分になること」だと思います。
みなさんの中には、自己実現をこのようにとらえていた方もいらっしゃるのではないでしょうか。
では、なぜ「なりたい自分になること」が必ずしも自己実現ではないのか、その点について説明しましょう。
「自己実現」とは何か
そもそも自己実現という言葉を世の中に広めたのは、人間性心理学の創始者であるアブラハム・マズローに負うところが大きいと言えます。
アブラハム・マズローは、1908年4月1日、米ニューヨークのマンハッタンで、父サミュエル、母ローズの長男として生まれました。
両親はロシア系ユダヤ人で、アメリカに移住しました。マズローは移民の2世にあたります。
心理学者としての道を歩み始めたマズローは当初、行動主義心理学者として活動します。しかし、行動主義心理学の限界を痛切に感じ、次第に距離を置くようになります。
そして、1943年に論文「人間の動機づけに関する理論」を発表し、行動主義心理学との決別が決定的になりました。
この論文は「マズローの欲求階層論」(俗に「マズローの欲求5段階説」と呼ばれています)について述べたもので、その中で自己実現という言葉が登場します。
そもそもマズローは、「その人がもつ潜在能力を十二分に開発すること」が自己実現だと定義しました。マズローの言葉を引きましょう。