「好きな服を着る」ことのハードル
勤め先がオフィスカジュアル推奨で、なおかつ業務が客先に出るものではないという理由から、僕は職場でもメンズアイテムを身に着けて働いています。髪型も服装に合わせてメンズカットです。とはいえ仕事着なので、色味やデザインが落ち着いた、あくまでTPOを考慮したものを選んでいます。
冬場は落ち着いた色味のニット、シャツにカーディガン、夏はポロシャツなどの半袖で襟付きのシャツが多く、ボトムスはベーシックなレディースのスラックス、靴は決まって黒のオックスフォードを合わせています。なるべくシンプルでオーソドックスに見えるメンズファッションです。
仕事着をベーシックな印象にしている分、休日は思い切り好みでカジュアルなものを楽しんでいます。メンズファッションのなかでもかわいい印象のデザインが好みで、何度か彼女から「男子大学生みたい」と言われたこともありました。同年代の男性が選ぶものよりたしかに若いデザインかもしれないけれど、好きだから着たいんです!
TPOさえ守れば好きなものを着ればいいじゃないかと、ここまで読んで感じたかたもいるでしょう。でも、実際はそんな簡単なことではありません。理由は大きくわけてふたつあると考えます。
1つ目はサイズ。購入の際に男性の身体ではレディースデザインのサイズは小さく、女性の身体ではメンズデザインのサイズが大きすぎるなどサイズ感で苦労することがあります。
特に通販を利用する場合はそれが顕著で、最近はユニセックスなアイテムに関しては同一アイテムで男女のモデルが採用されるようになりましたが、そのほかの多くのアイテムでは対象の身体の性別のモデルしか採用されていません。
僕もメンズアイテムを着始めた当初は、通販はサイズ感が合うかわからず利用できませんでした。利用できるようになったのは、店舗購入で自分の身体に合うメンズアイテムのサイズが把握してからです。それでも購入後に結局サイズが合わず、返品ということもありました。
2つ目は周囲の目。年齢や性別で「○○なのに○○を着るのはおかしい」と言ってくる人の存在や、その人が投げかけてくる言葉や視線は、「好きなものを着る」ことへの大きなハードルになります。
また、僕のような身体が女性のかたが異性装(男装)をすることよりも、身体が男性のかたが異性装(女装)をするのとでは、さらにハードルの高さが変わります。
校則や就業規則で女性が髪を短くすることに対する規定はあまり見かけませんが、男性が髪を伸ばすことについては規定が設けられていたり、もしくは暗黙の了解で「髪は短く」とされていたりします。
身体が男性の場合のほうが身長が高い場合も多く、物理的に目立ってしまうなんてこともあるでしょう。異性装に向けられる視線は、いまだ無理解である場合も多く、好きな服を着ているだけで悪意のある言葉をぶつけられることもあります。
このように、さまざまな理由から好きな服を選びたくても手を伸ばせなかったかたは、決して少なくないはず。誰もが不安なく、自分らしい服を着て暮らせる世の中になってほしい。誰かの好きな服を貶す言葉はいつしか自分に向き、重たい枷となって自分が好きなものの幅を狭めることになると思います。
自分らしい服装
こういった悪意は、異性装以外にも向けられることがあります。
たとえば年齢によって「この服はもう似合わないかも」と思うことは誰しも起こり得る自分の服装への変化ですが、単にデザインの系統などが“好みではなくなった”ことが原因ではなく、「○○歳なのにこの服装はおかしい」などと他者から押し付けられたりしたり、押し付けられるかもしれない言葉を想像してしまうことが気になるのであれば、「自分らしい服装」からはかけ離れたものになってしまうのではないでしょうか。
メンズ服を着るようになってから、服を買ったりコーディネートを考えることが格段に楽しくなった。それまで自分に服が似合っていると自信を持つことなかったのに、「似合っている」と思えるようにもなりました。まさにこれが「僕らしい服装」だったのです。
僕はファッションを通して、外からは見えない心の“形”と外見の“形”が次第に近づいていくのを感じました。
服装の系統が定まると服以外の部分の選び方にも変化は及び、髪型もメンズカット。そうして外見の形を心の形に寄せていくことで、自分らしさを新たに作り上げていきました。
自分に似合うのはメンズ服なのだと、もっと早く気づけばよかった!学生のころに気づくことができていれば、もっとオシャレをして通学できたのに、なんて考えて悔しく思うこともあります。
しかし前を向いてこれからの人生を考えれば、もっと後に気づくよりはいまでよかったのではないかとも思うのです。さらに数年後に気づく可能性だってあったわけですから。好きな服を着て、これからを楽しみたいと考えています。
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