こんにちは、椎名トキです。
僕は身体の性は女性ですが、心の性は定めていないセクシュアルマイノリティ(セクシャルマイノリティ)。服装は、もっぱらメンズファッションのアイテムを楽しんでいます。
きょうは大好きなメンズファッション、僕の身体の性を基準に言えば「異性装」にあたるファッションについての話をしましょう。
僕とメンズファッション
僕がはじめて手にしたメンズアイテムは、高校生のころに買ってもらったカーディガンでした。
当時、制服のセーラー服のうえからオーバーサイズのカーディガンを羽織るスタイルが流行。メンズサイズならわかりやすくオーバーサイズになるのが「イケてる」と周囲で話題になったのです。
僕はクラスでもまったくイケてるタイプではなく、むしろ地味な立ち位置でしたが、メンズファッションに漠然と憧れていたため「流行ってるの!」と親に頼んで買ってもらいました。
そのときのそわそわするような嬉しさは、イケてるファッションができたことよりも、メンズ服に身を包めたことへのときめきだったように思います。
その後もメンズファッションに憧れはあったものの、レディースアイテムのコーディネートへの取り入れ方が難しく、なかなか取り入れることができませんでした。身体が女性なのにメンズを着ていることで周囲から浮いてしまわないかという不安もありました。
なので当時は、レディースファッションの範疇からボーイッシュなものをセレクト。レディースファッション自体にはあまり興味が持てなかったこともあり、正直言って冴えない格好でした。そんな冴えない僕のファッションの転機は2015年にやってきます。
「ノームコア(気取らない通常の服装を特徴としたユニセックスなファッショントレンド)」とよばれるファッションの流行がきっかけで、僕はメンズファッションを堂々と着ることができるようになったのです。
このときに大手ファッション量販店が発売したのが、パッキングされた梱包が特徴の、通称「パックT」。メンズサイズでの展開のアイテムでしたが、あえてこれを女性が着るというのがSNSで大人気になりました。
「メンズを女の子が着るのがメインカルチャーのオシャレ」という価値観はとても衝撃的で、「身体が女性でもメンズを堂々と着ていいんだ!」と気づかせてくれた。すぐさま量販店に走り、僕はパックTを手にしました。
クローゼットに増えていくメンズアイテム
パックTを手にしたことで始まった、僕のメンズファッション。はじめは休日だけ、パックTをレディースコーデに加えるという楽しみ方から始めました。
男女共通サイズ(要はメンズサイズ)のアイテムは、それまでもアーティストのライブTシャツなどで着ていたはずなのに、メンズアイテムというだけですごく自分に“合っている”と感じたのを覚えています。色違いも複数色購入して、おそらくほとんど毎週末着ていたんじゃないでしょうか。それくらい気に入っていました。
週末だけの楽しみは、時間が経つと次第に欲が出て「もっとメンズのアイテムを身に着けてみたい」と思うように。そして次に取り入れていったのは、カーディガンやパーカーといった性別問わず着るけれど、男女で形が微妙に異なるアイテムでした。
一概には言えないかもしれませんが、一見性差はないように見えるパーカーやカーディガンでも、肩や胸周りのサイズ感、細部のパーツ比率など違って感じます。しかしぱっと見ではメンズアイテムかレディースかわかりにくいアイテムでもあり、メンズアイテムの入り口としてとっつきやすさを感じていました。
「ぱっと見でわからないのであれば、レディースアイテムのオーバーサイズを選べばいいのでは?」と思うかもしれませんが、そうではありません。あくまでも“メンズアイテムであること”が僕にとってはとても大切なのです。
取り入れやすいアイテムから入って、シャツやニット、パンツ、ジャケットと少しずつ僕のクローゼットにメンズ服が加わっていく。季節が巡る度に、クローゼットのなかを占めるメンズアイテムの割合が増えていくことにワクワクしました。
レディースファッションにはあんなに興味が持てなかったのに、メンズファッションというだけでこんなにも服を選ぶこと、着ることが楽しいなんて。僕にとって「これは自分のもの」と心から思うファッションは、メンズファッションだったのです。
いま、クローゼットの大半はメンズアイテムで、数年前からは仕事でもトップスは決まってメンズ服を着るようになりました。