私と恋愛してくれませんか?
彼は、「一生恋愛をすることはない」と私に話していた。
フリーター生活に入る前に仕事で鬱になり、恋愛においては結婚しようとしていた人に浮気されて破談。今後の人生において夢中になることや誰かを愛することを諦めていたのだ。
彼の状況は言葉にするとなにもかもを失った悲劇的な男性のようだが、彼はそれを他人事のように語り悲しい表情などはひとつも見せなかった。
夢を追って輝かしい未来しか想像しなかった私にとって、そんな彼はとても強い人間として映った。自分がダメだということや弱いということを卑下するのではなく、認めている。認めたうえで、これが自分なのだと話す彼は私の価値観を変えた。
夢を追うことがすべて正しいのではない。一日一日を丁寧に生きることや、繰り返される日々を己で楽しくすることの難しさと尊さを彼は知っていた。
なんてことない会話を誰よりも楽しくするし、同じ映画の感想を話すにも人とは違う想像力を働かせる。どうってことなく見えることにも夢中になり、突き詰めて調べものをする。
「俺にはこんな夢があるんだ」「僕はこんなことができてね」世の中に数多存在しているような自分を強く大きく見せようとする男性よりも、正直で自分の弱さを認め自分の目で周りを面白く見ようとする彼が心底男らしく魅力的だった。
「私と恋愛してくれませんか?」
そう告白したのは1年後。彼がそのアルバイト先を辞め、就職するタイミングであった。こうして私たちは付き合うこととなった。
3カ月で終わったお付き合い。それでも好きな理由
がしかし、交際期間は3カ月で終了することとなる。展開の早さに追いつけないそこのあなた。恋は続くよどこまでも、なのでここからが本当の始まりなのでご安心を。
付き合い始めたというものの、そのころの私は夢みがちな女子大生で彼は再就職をしたアラサー。私が彼の気持ちをわかるわけもなく、彼が私に歩み寄る余裕もない。
「別れてくれないかな」と彼に言われたとき、口から落ちる言葉と頭の中に渦巻く言葉は「なんで」の三文字しかなかった。純粋にわからなかったのだ。彼に合わせられると思っていたのだ。
いま考えれば社会人の大変さ、ましてや再就職をした人を支えることなど到底できるはずもないのだが、そのときは悲劇のヒロインで、泣いても泣いても涙は止まらず、ひどい彼に振り回された私になることで慰めをもらっていた。
けれどその反面、私は振られていて、かつさまざまな人にひどい人だ!と話しているのに「彼のよさを彼自身にわからせるのは私しかいない!」という根拠のない強い自信を持っていた。それほど心底彼に惚れていた。
別れてからも、彼と連絡をとってはわかりあえず傷付き、泣き喚いて、それでも彼のよさは私にしかわからないんだと彼を嫌いになれない。これを何回も繰り返した。
最低で自暴自棄に思える彼の行動に傷ついたり、振り向いてもらおうと嘘をついて愛想を尽かされたりもした。
それでもまた彼を思い出すのは、会ったり会わなくなったりを繰り返すたびに、私が知らなかった彼の本当のよさを知ることになるからだった。