2度目のデートはディナーだけ
「よかった!来てくれないかと思ってました」
駅前に現れた俺に抱き着いてきたエリカさんは、前と同じ天使のような笑顔だった。
「ちょ、ちょっと…みんな見てるから」
「ダメですか?会いたかったんです」
こんなに積極的な子だったっけと不思議に思う。駅前まで送ってくれた友人が「やばそうだから3時間後にまた来るわ」と車のなかから様子をみてメッセージを送ってくれた。それぐらい、エリカさんの態度は親密すぎた。
「3時間くらいしか時間取れないんだけどいい?」
「何かあるんですか?」
「次の日も予定あるから、早く帰りたいんだ」
「そうなんですね…ごめんなさい、私、わがまま言って」
申し訳なさそうに俺を見つめるエリカさんの顔に、思わずドキッとする。積極的過ぎる態度に不安になったものの、可愛いことに変わりはない。
「大丈夫だよ。誘ってくれてありがとう」
むしろこんな可愛い子にグイグイアプローチされるなんて、俺はもしかしてモテ期がきてるんじゃないか?これは決意するいいタイミングなんじゃないだろうか。いや、でもそんな簡単に流されちゃいけないだろ。
結局俺はこの日エリカさんと駅前の居酒屋で夜ご飯を一緒に食べ、そのまま別れた。
「じゃあまた来週の土曜日ですね!」
「ああ、うん。そうだね。楽しみにしてる」
「そういえば…彼女にしてくれるかどうかって決めました?」
「えっと」
エリカさんが俺の腕をギュッとつかむ。これは返事をするまで帰さないぞ、というアピールだろうか。しかし、たった2回のデートだけで彼女にするかどうかを決めるなんてできない。いくら可愛くても無理だ。俺の心のなかで「この女はやばい」って危険信号が出ている。
「おい、優斗!」
後ろから友人の声がした。助かった。エリカさんは俺の腕を渋々ほどいて、友人に向かってペコリと頭を下げた。
「ごめん、友達迎えに来てくれちゃったから…帰るね」
「そうですか、わかりました。気をつけてくださいね」
ニッコリ笑ってエリカさんは手を振る。
「あ、あの」
「ん?」
「なんで県外ナンバーなんですか?」
エリカさんが友人の車を指さして尋ねた。
「ああ、俺地元が隣の県なんだよね」
友人の答えに対して、エリカさんは「へぇ」と一言発するだけだった。
終わりのデート
3度目のデートで、俺はエリカさんに「もう会えない」と告げようと思っていた。こんな曖昧な気持ちでずるずるデートを重ねても、エリカさんを振り回すだけだからだ。
「この間はすみませんでした!」
しかし、会うなり突然頭を下げてきたエリカさんに俺はびっくりする。
「彼女にしてくれだの、約束してないのにデートしてくれだの、私わがままばっかりで…」
エリカさんはうつむいたまま、震える声で俺に話す。
「ちょ、ちょっと。泣かないで。俺気にしてないよ」
「嘘です。優斗さん、絶対やばい女だって思ったはずです。友達にも怒られました。そんなのドン引きされて当然だよって」
「ドン引きだなんて…」
たしかに引いた。この女はやばいからもう近づかないほうがいいと思っていた。友人にも「あの女は付きあったら大変なタイプだから気をつけろ」と念を押された。
「私不安だったんです。実は先週の木曜日に友達と映画を見に行ったんですけど、積極的にアプローチしないでいたら好きな人をライバルに取られちゃうって話で…。そのおかげでほんとうの運命の人と出会えたって話だったですけど、いまの私にとっては好きな人が優斗さんだったから…積極的にアタックしないとライバルに取られちゃうかもって思ったんです」
「そうだったんだ…」
「だから、ごめんなさい。人の気持ちを考えないアタックなんて、嫌われちゃいますよね」
しょんぼりしているエリカさんを見ていると、なんだか胸が痛んだ。そんなに俺のこと、気になってくれてたんだ。
「じゃあ、とりあえずきょうは普通にデートしようよ」
俺はエリカさんの手をとってニッコリと笑って見せる。もう何も気にしてないよ、大丈夫だよという思いを込めて。
「これまでのことは忘れてさ、きょうはたくさん遊ぼう!ね?」
「はい!」
そのまま日が暮れるまで買い物や映画、カフェを楽しんだ俺たちは、また連絡するねという約束をして別れた。
帰りの新幹線に揺られて、俺はエリカさんに送るメッセージを考える。
あのとき感じた「この女はやばい」という危険信号は、きっと映画に影響されたエリカさんを見てしまったからだ。きょうのエリカさんにはそんな要素感じなかったし、勘違いなんだろうと思う。
でも…何かに影響されてあんな風になるなんて、この先も同じようなことがあるんじゃないだろうか。
「また会いたい、って素直に言えないんだよな…」
エリカさんの笑顔が頭に浮かぶ。天使みたいな顔をして、心のなかは全く読めない。どちらが本当のエリカさんなのか、わからない。
そのとき、スマホが震えた。新着メッセージが1通来ていた。
「来週研修終わってそっち帰るよ!早く会いたいな~」
仕事の研修で3カ月県外に東京に行っていた、同棲中の彼女からのメッセージだった。
俺は電車の時間が何時なのか聞いて、エリカさんをブロックする。3カ月、彼女がいない間のつかの間の楽しみに終止符を打った。
わざわざ隣の県まで足を運んで、アプリで知り合った女の子と遊んでみたけど…やっぱり彼女といるほうが楽しいな。ほかの女の子と寝れたらと思ったけど、さすがにそこまでしっかり浮気をする勇気はなかった。
エリカさんには悪いけど、アプリの関係なんてそんなもんだろと思いながら、俺はアプリを退会した。
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