いつの日か虐待を連鎖させない確信が持てたら
だいすきな友人のお腹のちいさな住人が外に出てきたら、ぼくはその子を愛すだろう。きっとたくさんの絵本とおもちゃを貢ぐし、その子の人生が幸福しか詰まっていないものでありますようにと心から願うだろう。
その子だけじゃない。かつて塾講師をしていたときに受け持った生徒たち、まだ赤ちゃんくささの残る幼稚園生・小学生、生意気盛りの中学生、そして大人と同等の精神を持ちながらも感受性はむき出しのままの高校生…ぼくはぼくなりにその全員を愛しく想っていた。
大切だったし、いまでもときどき生徒たちからもらった寄せ書きの色紙を見返したりもする。
子どもなんてとくべつ好きじゃなかったし、なんならいまでも知らない子の騒ぐ声なんかはちょっとうるさいとか思っちゃうし、そもそもいい先生なんかでもなかったけど、その気持ちは本物だった。
幼くか弱い存在に対して、限定的ではあるにせよ愛情を持つこともある。だけど、自分のうちにひそむ暴力性を跡形もなく消し去ることができないのなら、ぼくは子を持つつもりはない。
夫は結婚前からぼくとの子どもがほしいと言ってくれているし、その希望を叶えてあげたい気持ちもある。
しかしぼくは、あの悪夢を再演したくないのだ。
ぼくの卵子をもとにつくられようと、その子はあくまでぼくとはまったく別個の存在だ。独立した一個人であり、ぼくとは完璧に切り離された1人の人間なのだ。
その子の人生を壊したくない。心理的にも肉体的にも、一生癒えぬ傷なんかつけたくない。尊厳を踏みにじりたくないし、たとえば自分の自尊心を満たすために何かを要求したくない。虐待の連鎖を、断ち切りたい。
性別違和を凌駕(りょうが)するほどに強く子を望む未来が訪れるのか、それはぼくにもわからない。
でも、いつの日か虐待を連鎖させない確信が持てたら、そして必然的に背負わせてしまうあらゆるマイノリティ性ゆえの苦しみからも守り抜く覚悟ができたなら、そのとき初めて子を迎えることについて夫と話し合ってみたい。
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